9月24日、駒澤大学社会学科の李ゼミが駒沢こもれびスタジオで公開ゼミを実施しました。
9月1日から3日に石川県で行ったゼミ合宿調査の成果を発表するもので、石川県の関係者がオンラインで参加。研究者やまちづくりの実践者、他大学の学生さん、世田谷区職員さん、区議員さんまで、20名以上が会場に集まりました。
今回はその様子を李ゼミの学生がレポートします!

実現が難しい「市民主体」
李ゼミの研究テーマは「市民によるまちづくり」。
今年は駒沢こもれびプロジェクトと社会連携を行い、駒沢で市民のまちづくりを盛り上げる方法について研究をしています。そこで特に意識したのが、「市民主体」をどう具体的に実装するかという点でした。
ゼミ生たちが調べてたどり着いたのが石川県加賀温泉の取り組みです。石川県の「サテライトキャンパスサポート事業」の支援を受け、専門家のプログラムのもと濃密な合宿調査を行いました。

「市民主体」を考えるための手がかり
発表では、まずゼミメンバーが先行研究から整理した「市民主体」の6つの特徴を紹介しました。
- 能動的・自立的な関与:市民が自ら課題を発見し、計画から実施まで積極的に関わること。
- 協働性:行政や専門家など、他の主体と協力して取り組むこと。
- 制度的指示:活動を支える制度や予算、権限が整備されていること。
- 継続性・持続可能性:活動が長期的かつ社会に影響を与え続けること。
- 公平・包摂性:多様な市民が参加でき、公平性が確保されていること。
- 成果の実質性:参加自体が目的ではなく、地域生活の改善など具体的な成果を生み出すこと。
しかし、理想的な「市民主体」を実現することには、大きな壁があることも感じていました。特に、情報や経験の差があると、対等な関係で協働することが難しい。
「立派な市民主体なんて、到底実現できないんじゃないか……?」
こうした疑問を抱えたまま、私たちは石川県での調査に臨むことになりました。そしてその問いが調査全体を貫く視点にもなりました。

石川県の取り組みから学んだ「市民主体のあり方」
ゼミ生たちは、石川県加賀市にある市民によるまちづくりの拠点を3か所訪問しました。
おんせん図書館みかん
本棚オーナー(本棚スペースを“借りて”、自分の選書やレイアウトを自由にプロデュースできる人)が、本や時間、イベントなどを「持ち寄り」で運営する私設図書館。
九谷焼美術館
プロの陶芸家たちが中心となり、質の高い文化イベントを企画・運営する九谷焼専門の美術館。
蘇梁館(そりょうかん)
ボランティアが主体となり、文化財である建物を管理・活用し、多くの若者をまちに招き入れる施設。
これらの事例から、市民主体は一つの形ではなく、さまざまな「場」や「きっかけ」を通して、地域やコミュニティを巻き込みながら生まれていくものだという気づきが得られました。
-1024x768.jpg)
持ち寄りの仕組み―運営側と利用側の線引きの曖昧化
「おんせん図書館みかん」は、「未完成」であることを大切にしている場所です。スタッフが全てを運営するのではなく、一箱本棚のオーナーたちが店番やイベントまで「持ち寄り」でつくっていく空間です。未完成だからこそ関わりが生まれ、サービスを提供する側と受ける側の境目がやわらかくなっています。
みかんのような「持ち寄り」の形にも、駒沢がこれからつくる市民主体のヒントがあるかもしれません。地域と一緒に、駒沢らしい参加の広げ方を探っていきたいと感じました。
-1024x768.jpg)
プロが自ら楽しむイベントづくり―市民目線の獲得
九谷焼美術館は、プロの陶芸家たちが中心となるNPO法人によって運営されています。九谷焼を「広める」こと以上に、「自分たちが心から楽しむ」ことを大切にしてイベントを企画しているそうです。その姿勢が、結果的に多くのファンを生み出しています。
駒沢こもれびプロジェクトでも、編集やイベントづくりのプロが関わっています。そこからしみん記者やしみん先生が誕生し、地域の人がさらに一緒に楽しめる活動をどうつくっていかれるか。九谷焼美術館の姿勢から、そんな視点をもらったように感じました。
-768x1024.jpg)
「財」は活かしてこそ―エリア全体が活気づく入口となる
江戸時代の有力商人が建てた文化財の建物「蘇梁館」は、ボランティアによる自由な運営が特徴です。通常は触れることのできない文化財に触れられたり、コスプレ撮影や地域のイベントに使われたりと、柔軟な活用が行われています。若い人たちの来訪を促し、周辺エリアへ足を運ぶきっかけにもつながっています。
-1024x768.jpg)
意見交換から生まれた視点
公開ゼミの後半では、石川県のまちづくり関係者、こもれびプロジェクトのメンバー、来場者が一緒になり、意見交換を行いました。そこで挙がった言葉の中から、印象に残ったものをいくつか振り返ります。
人口が減っていく地域では、市民を担い手として巻き込む仕組みがとても重要。そのため、多様な工夫が生まれやすい。
強い推進者がいることで動き出す取り組みもある。ただ一人に頼りすぎないよう、関わる人の幅を確保しておくことも大事。
「あの場所で、あの人と、何かやってみたい」と思える空気づくりが、主体性を育む。小さな成功体験が積み重なれば、より多くの人が自然と参加できるようになる。
今回の公開ゼミを通して見えたこと
今回の公開ゼミでは、石川県の具体的な取り組みを通して、「市民主体」には多様な形があり、地域それぞれの特性や資源に応じて育まれていることを確認できました。
特に、サービスを提供する側と受ける側の線引きを越えて多様な人が関われる「余白」をつくること、プロ自身が楽しむ姿勢、そして地域の「財」を柔軟に活かす空気感が、持続可能な市民主体にとって重要な視点だと分かりました。
こうした気づきは、駒沢のような都市部でのまちづくりを考える上でも、貴重なヒントになりそうです。
まちも、まちづくりの形もさまざま。共通点を見つけながら横断的に学び合うことの大切さを感じた公開ゼミでした。
今回の公開ゼミを通して、これまで「市民主体」という言葉を抽象的にしか捉えられていなかった私にとって、市民主体は多様な人が少しずつ関わることで形づくられるものだと実感できたことが大きな学びでした。理想的な形を追い求めるよりも、「自分にもできる関わり方」を探すことが市民主体の第一歩だと感じました。今後は、自分自身の暮らしの中でその一歩をどう踏み出せるかを考えていきたいです。(S.S)
- SNS SHARE



同じように地域の価値を高めようとするまちの活性化事業で、「市民主体」の良い取り組み例があれば、それはきっと、駒沢にとっても参考になるはず!