駒沢パーククォーターの植栽デザイン|長濱香代子さんが込めた想い。「人と植物の心地よい時間」<前編>

インタビュー

駒沢パーククォーターに訪れる人が、まず目を奪われるもの。それは四季の移ろいとともに表情を変える植栽の美しさです。この心地よい風景をつくりあげたのは、ガーデンデザイナーの長濱香代子さん。駒沢という土地の個性とアウトモールの特性を踏まえ、自然の力を最大限に引き出した空間づくりは、癒しと活気をもたらします。

今回は、植栽プランに込めた思いをはじめ、長濱さんがどのようにしてこの道に進んだのか、さらにデザイナーとして大切にしていることを伺いました。緑と街、人をつなぐそのデザインの背景と長濱さんのまなざしを知ると、駒沢パーククォーターの景色がもっと、優しく、あたたかく感じられます。

人と植物が共に過ごす「時間」に思いを巡らせ、デザインした植栽

訪れる人の多くが、駒沢パーククォーターの緑に目を奪われます。長濱さんが植栽デザインをする上で、大切にしていることはなんでしょうか。

【長濱】私が関わる仕事すべてにおいて大切にしているのは、人が植物と過ごす時間について想像を巡らせることです。

例えば、ここで待ち合わせをするなら、天気のいい日にテラスで食事をするなら、車椅子の方とつきそいの方が病院帰りに散歩に来るなら……。と、そのような様々な人の生活のそばに植物がどの様にして関わり合いを持つことができるのかを考えています。植栽デザインは、人と植物が心地よく過ごす、あるいは思い出になる「時間」を植えることだと思っています。

駒沢パーククォーターの植栽デザインの中で意識したことはありますか?

【長濱】人の行き来が多い場所というのは頭にありました。

駅前の交差点の一角で、首都高からも見える場所。人、自転車、車が流れていくなかで、植物が街と調和しながらどう見えるか、はシミュレーションを重ねました。今後、木々が成長し、歩道に沿った植栽帯の緑のボリュームが増していくことで街の骨格になり、やがて建物 を包み込んで街の景観そのものになってくれることを考えています。そして植物が単なる緑化の材料ではなく、人の滞在時間や行動を柔らかく促し、立ち止まるきっかけになったり「なぜだかわからないけれど心地良い」と思ってもらえる地域の生活の延長として楽しめる場になってほしいという思いもありました。

例えばそれはどんなデザインなのでしょうか。

【長濱】散策したくなるような柔らかな導きや、目線が動く植物の配置、立ち止まるきっかけづくり、木陰の揺れ、水の音、花の香り、そうした五感に触れる体験を自然に導くような仕掛けは計算しています。

そこまで計算されているのですね。

【長濱】もちろん、それは訪れる方は意識しなくていいことなんです。何気なくお買い物やカフェに立ち寄った際に、緑のそばで立ち止まり、花の香りや風の音を感じる。ここに来ることで、日々移ろう植物の存在を感じて、その方なりの発見があったらいいな、と。日常が少し上向きになる、ポジティブな気持ちが湧いてくる、植物と人が関わる場所を目指してつくりました。

長濱さんが、もっとも力を入れたゾーンはどこですか。

【長濱】うーん。どこというのはなくて、全部に力を入れていますよ。やはり場所ごとに、生育環境が異なっていることで植栽のデザインの特徴が違っているんです。

開放感のある屋上テラスは日照環境がいいので、いろいろなハーブや宿根草、低木類を30種類ほど植えています。特に風に揺れるグラス類、花期が比較的長く、バトンタッチをするように開花する宿根草が季節を通じて彩りを添えています。階段脇のフェンスは、つる性の植物が植えてあります。少しづつ植物が絡まって面を覆っていく変化があるのでそれも楽しみにしてもらいたいです。

2階にはビオトープ池があり、小川のような水の流れを作っています。ショウブやスイレンなどの水生植物が育っています。設計当初は単純に水を循環させる設計だったのですが、そのためには薬剤を使わないといけなくなります。ただ眺めるだけの水景より、子供達がちょっと手を入れて触りたくなったり、水生植物が育ったり、めだかが泳いだりしている方がこの地域にはあっているのではないか、と考えて自然濾過によるビオトープにしました。

どの年代の人たちも、ほっとできる場所になりそうですね。施設の目玉となるシンボルツリーやシンボリックな植物はありますか。

【長濱】駒沢公園の緑に呼応するような樹種を多く選んでいます。モミジやリョウブ、サルスベリといった日本に自生する落葉樹を使っていることが特徴かもしれません。通常、商業施設では常緑樹が選ばれることが多く、ともすれば変化に乏しい印象になってしまいがちです。

駒沢パーククォーターでは、春の芽吹きや花の開花が楽しめて、秋になれば紅葉するものもあります。落葉しても幹の美しさや枝ぶりの良さは感じられ、冬に小さな蕾や芽が宿っていることを発見することも素敵なことです。そういった自然の移りゆく姿は、人の心を和らげ忙しい日常に埋没してしまっている感性を呼び覚ましてくれる存在です。

この地域をよく知っている、「ちゃんと土を触っている人」ゆえのオファー

実は、長濱さんがプロジェクトに加わったのは、設計がある程度進んだ段階だったと聞きました。

【長濱】そうなんです。プロジェクトが進むなかで、こもれびプロジェクトから「もっと街に開かれた、もっと街を巻き込んだ、街に貢献できる植栽にしたい」というお話があったそうです。そこから、「緑を増やすこと」「コミュニティの成熟」「時間を消費する生活の中に潤いを与えること」など、日常を豊かにする植栽を目指して再検討が行われ、私にご相談をいただいたという流れです。

その相談を聞いて、どう思われましたか?

【長濱】もちろん、途中から入ることへの不安はありました。でも、現在は世田谷区の野沢に事務所を構えていて以前は八雲に事務所がありました。このエリアについてはよく知っています。犬を飼っていたのでよく駒沢公園にも行きましたし、「ブラックストリームケンネル」の袴田先生にもお世話になっていました。できた当初からバワリーキッチンにも行っていて、公園通りには友人もいます。ですので、地域のみなさんに喜んでもらいたいという気持ちと、プロジェクトのみなさんの植物や、環境に対する思いを汲んで、お受けすることにしました。

初めての打ち合わせのときに、プロジェクトメンバーが長濱さんの手をみて「あの人は、しっかりと土を触っている手をしている。だから、図面上だけで考えない植栽デザインをしてくれる」と言っていたそうです。

【長濱】いつも爪の奥に入った土が取れなくて(笑)。 

いえいえ。植物と向き合っている真摯な手、ということだと思います!

明日の後編へ続きます。

長濱香代子

Garden Designer

1990年同志社大学哲学科卒業。日本アイビーエム株式会社勤務を経て、独学でガーデンデザイナーの道へ進 み、1998年 有限会社スタイルイズスティルリビングを設立。2011年6月長濱香代子庭園設計株式会社を設 立。ガーデンのデザイン、設計施工、メンテナンスまでを一貫して手がけている。 広く実践に裏付けのある植物の知識と、モダンなセンスで、個人住宅の作庭から商業施設のランドスケープまで幅広く活躍。現代のライフスタイルおよび住宅デザインに調和する庭づくり、自然度の高いランドスケープ によって、建築家とのコラボレートも多い。軽井沢に15年以上アトリエを構え、浅間山の南麓に、宿根草やスグリ、ルバーブなどを育てるファームを運営。また奈良県吉野町では築100年の古民家の再生を手がけてい る。

text/ shino iisaku photo/ ikuko soda

『今日の駒沢』編集部

駒沢エリアの情報を発信するウェブマガジンの編集部です。駒沢大学駅に隣接した商業ビルの運営・施設管理・テナントへの賃貸業務を26年、株式会社イマックスが、駒沢エリアに住む人、働く人、活動する人…とたくさんの市民の方々と一緒に運営しています。「駒沢こもれびプロジェクト」を通じて、駒沢エリアに関わるすべての方々に役立つ情報を発信しています。