
前編では、『鹿港』(ルーガン)の店主・小林さんが本場台湾で出合った肉包(ローパオ)の修行をさせてもらうまでの10年の物語と、2025年秋、駒沢大学駅前にできる商業施設に出店を決めた想いをお届けしました。後編では、台湾での修行の日々、そして世田谷上町に「鹿港」を根付かせ、今、新たな展開へと向かう心境を聞きました。
「ひたすら包む」台湾での修行の日々
そこからはじまった、台湾での修行生活はなかなか厳しかったそうですね。
【小林】 朝5時から夕方の18時半まで、地元の若者や大陸(中国)から来た人たちに混ざってみっちりやりましたね。最初はとにかくひたすら“包む”毎日でした。
下積みの大変さを感じます。おいしい肉まんにするために、包み方になにかコツがあるのでしょうか。
【小林】 いえ、包み方は見た目のちがいくらいで味に大きく影響はありません。いちばん大事なのは、生地を作って練っていく工程です。普通はミキサーでこねて終わりなんです。でも、うちはミキサー4割でそのあと、ローラーに通してのしていきます。のしていく間にコシが出て、キメの細かい生地ができます。水分量がとても少ないので、非常に硬い生地なんです。
水分量の違いは生地にどのような影響を与えるのですか。
【小林】 水分量が多いと発酵が早くなってパンのような生地になってしまいます。キメの細かさを実現にするには、水分を抑えて、こねてこねて、のしてのしてを繰り返すんです。これがほかにはないことだと思います。

生地づくりであれだけ「めんどうくさいこと」をやるのは私たちしかいない
台湾で約2年学び、修業の地を店名にした「鹿港」を2003年に開業。そのとき、なぜ世田谷の上町を選んだのですか。
【小林】 もともと世田谷区で育ったので、知っている場所でやりたいという思いがありました。上町は下町っぽいところが気に入っていました。でもどの不動産屋も「肉まん屋?」と門前払いですよ。これもご縁なのですが、たまたま一軒、親身になってくれた不動産屋の方がいて今の物件を契約できたんです。ご近所の方も気さくに声をかけてくれるし、とてもいい場所で開業できて、よかったな〜、と思っています。みなさんあたたかいんです。
地元の方たちをはじめ、日々、行列ができていますが、「鹿港」がこんなにも支持される理由はなんだと思われますか。
【小林】 そうですねーー。「ここでしか食べられない味をつくっている」という自負はあります。特に生地に関しては、あれだけめんどうくさいことをやる人間は私たちしかいないと思っています(笑)。
ふわふわの食感と優しい甘さ、そしてキメ細やかでコシのある生地が最高ですよね。
【小林】 ありがとうございます。生地はうちの主役です。生地以外でいうと、肉まんは生の豚肉を包んで蒸しているところが味の決め手になっています。肉のうまみを全部閉じ込めるので、ジューシーに仕上がります。それと、具材の油ネギですね。どんなに高くても台湾から輸入しているこだわりの具材です。
リピーターのお客さんも多いと思いますが、やはり肉まんが一番人気ですか?
【小林】 開業からある肉まん、あんまん、饅頭(マントウ*)は人気です。それからラインナップを増やして、現在は黒糖饅頭、カレー肉まん、辛口肉まん、チーズカレー肉まんも販売しています。思い起こすと饅頭を買ってくれるお客さんが増えたときはうれしかったですね。
*ふわふわのほんのり甘い蒸しパン。生地に自信のある鹿港の肉まんの皮にも使用しています。
そうなんですね。今や看板メニューのひとつの饅頭ですが、開店当初は人気がなかったということですか。
【小林】 具の入っていない生地だけの饅頭は見向きもされませんでした。饅頭が売れるようになって、やっと生地の良さが伝わったと思いました。今ではお客さんの方が饅頭の食べ方をいろいろと知っていて、お肉や野菜をはさんだり、クリームチーズを入れたり、油で揚げたりと楽しみ方を教えてくれます。

駒沢でしか買えないオリジナルメニューを準備中
駒沢では豆乳を広めたいというお話をされていましたが、豆乳がメインですか。
【小林】 豆乳はもちろん、肉まんや饅頭などのフードにも力を入れていきます。うちの肉まんや饅頭と豆乳の相性は最高で、鬼に金棒だと思っているので、楽しみにしていてください。
それは楽しみです! 豆乳は今まで私たちが飲んでいたものとは違うのでしょうか。なにか特別なこだわりはありますか。
【小林】 私の印象ですが、日本の豆乳は若干濃い味だと思っています。台湾の豆乳はもう少しすっきりしていて毎日飲んでも飽きない味です。そのサラサラした飲みやすさをみなさんにお伝えしたいですね。台湾から機械を持ってきて、台湾の味を再現する予定です。

肉包や饅頭のラインナップは上町と同じになるのでしょうか。
【小林】 実はまったく同じではなく、駒沢ならではのオリジナル商品の販売を考えているんです。タケノコとキクラゲを入れて食感をよくし、台湾醤油をほんの少し入れて風味を増した肉包や、ドライフルーツを練り込んだ饅頭など、ここでしか買えない商品についても考え中です。手間がかかるからどのくらいできるかわからないけれど、チーズ饅頭も販売できたらいいですよね。これも、ものすごくおいしいんです!

出店するのは駒沢が最初で最後!
今後もほかの店舗展開はお考えですか。
【小林】いえいえいえ。それは、もう、まったくないです。たとえば駒沢がうまくいったり人気が出たりしたからといって、もっと手を広げると、たぶん、私の性格上失敗するんですよ。それはわかっています(笑)。あと、台湾のお店も許してくれないと思います。
今回の駒沢店について、台湾のお店にも許可をとられたと。
【小林】 はい。もともと支店は作らない、という約束でしたので。駒沢についてはしっかり説明してOKをいただきました。上町から目の届く範囲であるし、私自身も「支店」という感覚ではなく少しはなれた同じ店という認識です。
駒沢の店構えや内装も楽しみです。実は紆余曲折、迷いもあったと伺いました。
【小林】そうなんですよ。最初、駒沢は若い人向けのオシャレで今っぽい店にしようと思っていたんです。でも、いや、やっぱり何か違う、と思い直しまして。上町の雰囲気そのままに急遽内装を変更しました。うちにはオシャレはやっぱり似合わないですよね(笑)。うちの良さはそこではないし、みなさんそれを求めていないというのも思いました。

駒沢と上町のみなさんにメッセージ
駒沢地域のみなさんに、小林さんから伝えたいことはありますか。
【小林】 豆乳と肉包や饅頭を持って駒沢公園に行ったり、朝食として食卓にあげてもらったり、うちの商品や店が、みなさんの日常の一部になれたら、本当にうれしいです。一緒に盛り上げていきましょう。
ずっと「鹿港」を愛してきた上町地域のみなさんにも何かメッセージはありますか。
【小林】 何も変わらないので大丈夫です。上町の「鹿港」はいままで通りです。新しい味も楽しみに、ぜひ駒沢にもいらしてください。
手作り台湾肉包“鹿港”(ルーガン)
東京都世田谷区世田谷3-1-12
https://www.lu-gang.net/
・営業時間 9:00〜 売り切れ次第終了
・定休日 木曜日・第2・4水曜日 ※7・8月は毎週水・木曜日休み
*詳しい店舗情報についてはホームページをご覧ください。
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text / shino iisaku photo / eriko matsumoto
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