
家具、照明、食器やキッチンツールなどの雑貨からアートまで、独自の目線でプロダクトを取り揃えるライフスタイルショップ「SEMPRE」。
vol.1の記事では、代表取締役会長・田村昌紀さんのご自宅兼ショールームである「SEMPRE HOUSE」について、また、駒沢への思いをお届けしました。
今回は「SEMPRE HOUSE」の根幹にある、田村さんにとって「心地よい暮らし」とは何か、また家づくりで大切にした事柄についてお話を聞きました。

生活は変化する。だから暮らしも可変型が望ましい
駒沢にある「SEMPRE HOUSE」についてのお話のなかで、「快適な暮らし」という言葉がよくでてきました。快適な暮らしとはどのようなものでしょうか。
【田村】家は単なる「箱(ハウス)」ではなく、人生をつくる「居場所(ホーム)」です。「快適な暮らし」というのは人の数だけあります。自分たちのライフスタイルに合った暮らしができるということがそれに当たるかもしれません。本当に必要なものだけで部屋を満たせば、暮らしは心地よく、上質になっていきます。

田村さんがされている、そしてほかの人もできる、快適に暮らす工夫はありますか。
【田村】極力ものを少なくすることですね。ソファセットをどんと置くのではなく、家具もコンパクトになるように厳選しています。料理をつくる、食事する、くつろぐ、人が来たときにもてなす、それぞれの部屋で必要なことができる最小限がいいですね。あとはものを「かたまり」で置かないようにしています。
それはどういうことでしょうか。
【田村】例えば、本を本棚にすべてまとめてしまうのではなく、リビング、キッチン、寝室、仕事部屋と、そこで本当に読むものを置いています。ここに住んで50年ですが、そのときそのときで、生活は変化するんです。ものを「かたまり」で置かなければ、「今」必要な場所に必要なものを移動しやすくなります。それが快適さにつながります。

確かに50年という月日には、「住む」中にたくさんの変化があったと思います。
【田村】生活が変化するから、暮らしも可変型であるべきなんですね。家を建てた当初は家族4人と愛犬2匹の暮らしでした。子どもが小学生、中学生、高校生と育っていきますよね。子どもが家にいる時間も変化していきます。そのときに暮らしに必要なものは変わります。大学生になったら子どもは家を出てたまに帰ってくるだけになり、独立したら基本的には夫婦2人と愛犬だけの生活になります。
そうするとそれまで必要だったものが不要になるし、またその逆もありますね。
【田村】そうです。ものも部屋も変化しうる形であることが望ましいんです。その点で、僕は、家を建てるときはしつらえよりも基本構造が豊かであることを重要視しました。
家の普遍的な部分ですね。
【田村】光の存在、風の通り道を考えた住まいづくりは安らぎと穏やかさを与えてくれます。うちのリビングルームは北向きなので道路に面した窓からは朝日は入りません。でも家の真ん中に中庭をつくったことで、朝日を感じられます。どの部屋にいても、朝から夕方まで光が入る構造になっています。「SEMPRE HOUSE」を見ていただくことで、普遍的な部分と可変的な部分について体感してもらえると思いますよ。

子育て期こそ、大人が納得する家で過ごす
駒沢のこの場所に暮らし始めて50年、今の家に建て替えて40年と聞きました。そのとき、お子さんたちは小学生だったそうですが、なぜそのタイミングでの建て替えだったのでしょうか。
【田村】子育てが落ち着いたら、老後を考えて家を建て替えるというのはよく聞きますが、僕としては子どもたちが育ってからでは意味がないと思っていました。子どもたちの感性が豊かに開いていき、家にあるものや暮らしがしっかりと記憶に残るときだからこそ、オフの時間を堪能できる家にしたいと考えたんです。

数年で家から出て行ってしまうとしても、感受性豊かな時期を過ごす家の在り方が大切だと思われたのですね。
【田村】そうですね。独立してもいつでも戻ってこられる「実家」「ホーム」をつくっておこうと思ったし、子どもの成長期にこそ、上質な住まいを用意してあげたいと。それがきっと刻まれて人格の形成にもつながるんですよね。
2人のお子さんはそれぞれ独立され、娘さんはニューヨーク在住でデザイナーとして活躍されています。「SEMPRE HOUSE」で育ったことが大きな影響を与えているのではないでしょうか。
【田村】やはり子どもの頃から家にあった家具やアートの影響は受けているでしょうし、考え方もしぜんと学んでいたのではないでしょうか。デザインについて直接レクチャーしたことはありませんが、「納得できるデザインとはどういうものなのか」を感じることは多かったと思います。
僕は、子育ての時期こそ、大人が納得のできる家で過ごした方がいいと思っています。そうすることで、教えなくても子どもたちはものの価値観を身につけていきます。家族でどう暮らしたいか、そして、変化の先にある未来をどうやって過ごしたいのか、イメージを組み立てて家と暮らしをつくってきました。おかげで、今も納得のいく家で暮らせています。

<最終回のvol.3では、各部屋の特徴と工夫、そして住まうことへのチャーミングな愛情をお届けします>

SEMPRE
〒153-0044 東京都目黒区大橋 2-16-26
OPEN:11:00~18:00 (金曜・土曜のみ19時まで)
CLOSE:水曜
※SEMPRE HOUSEについてはSEMPREに直接お問い合わせください
text/ shino iisaku photo/ aya sunahara
- SNS SHARE