
いよいよ11月11日に駒沢大学駅前の交差点前にオープンする「KOMAZAWA Park Quarter 駒沢パーククォーター」。この建物の構想は、実に5年前から始まりました。
どんな想いでこの建物はつくられたのか。今回、建物全体をマネージメントしてきた松崎宏二さんと、実際に建物を設計したKAJIMA DESIGNの建築家である朝田亮さんを迎えて、駒沢の街にとって、どんな佇まいの商業施設を目指したのか、その魅力をたっぷり語ってもらいました。
ふたりのお話の聞き手は、駒沢在住で松崎さんの旧知の友人でもある建築家の寺田幸司さんが務めます。
「いい街にして、子どもたちにちゃんと渡したい」
駒沢の空気を知る人だからこその設計。
寺田 今日、おふたりの対談の進行役を任された寺田と申します。私は駒沢に住んでいて、松崎さんの建築仲間でもあるんです。朝田さんとは初対面ですが、実は大学の先輩・後輩という関係でもあるんですよね。駒沢パーククォーターの土地については、住民として、前のビルの頃から知っているので「次はどんなものができるんだろう」と期待を膨らませていました。ご近所代表としても、色々聞かせていただきたいと思っています。

松崎 私は建物全体をマネージメントする立場として、計画当初から関わってきました。もう、駒沢に通って5年以上になります。少し経過をお話すると、建築主のIMAXさんから、およそ半年間、基本構想についてのお話をじっくりお聞きし、これはどうしても相当ハイレベルな建築設計者を選ぶ必要があるな、ということになり、提案型の設計コンペを実施することにしました。そのときに候補のひとつであった鹿島建設さんから「うちに適任者がいます」と、紹介されたのが、朝田さんでした。コンペで提案いただいた建築プランが素晴らしかったのはもちろんですが、朝田さんが地元に住んでいて「家族に恥ずかしくないものをつくりたい」ともおっしゃっていて、この人は、つくりたいものを丁寧に、一生懸命に考えてくれると感じて、この方にお願いしたいと、決まりました。それが、出会いでもあります。
朝田 そうだったんですね。 意識としては、地元じゃなくても、どこであっても、一生懸命にその土地や環境や立地をよく見て設計を進めるので、どの地域の方も心配しないでいただきたいのですが(笑)。その上で、やっぱり場所の持ってる空気感のようなものは、ずっと住んでいる分だけ体に染みついているのかもしれません。だからこそ「いい街にして、子どもたちにちゃんと渡したい」という気持ちもありました。

寺田 その気持ちは大切ですよね。うちの家内は「駒沢は田舎だ」とよく言っていますが、都会的な要素も欲しいじゃないですか。妻はオープンしたらきっと楽しみに行くんでしょうけれど「駒沢にしてはイケてるんじゃないの」と言ってくれるんじゃないかと期待しています(笑)。
松崎 地元を知っている設計者に任せられるというのには、安心感がありましたよ。自分が使うイメージを細部にわたってまで持って設計できることって、実際はなかなかないですからね。1年を通しての街の空気感を知っている人の判断は、やっぱり間違いがないんです。それも、住民としての何年もの実体験を通して、熟知しているんですからね。
寺田 それがしっかりと生きているなと思いますよ。専門的な話をすると、設計をするときは課題表というものをつくるんですが、この建物の課題表を見せてもらったときに、地元民だからこそピンとくる部分が多かったです。他の地域の人が読むのと、日常の風景を思い浮かべながら読むのとでは、建物への解釈に対しても、理解の深さが違ったんじゃないかと思います。

駒沢の街にとって、あるべき建物とは?
朝田 寺田さんは建物内を実際にご覧になっていかがでした?
寺田 いやあ、面白かったです。これまで仕事帰りに駒沢大学駅で降りて、すぐ家に帰りたくないときは、本屋に寄ってたんですよ(笑)。でもその本屋がなくなってしまって。だから今回、ちょっと寄れる場所ができたことがすごく嬉しいです。実際に中を歩いてみても、懐が深くて、いろんな使い方ができそうだなと可能性を感じました。

朝田 外から見ると少しマッシブ(重厚)な印象かもしれませんが、中に入るとスケール感がぐっと人に近くなって、印象が違って見えると思います。
寺田 確かにそうですね。施工中はそう(マッシブ)見えてたんですけど、電気がついて、テナントさんの照明もついた瞬間に、ガラス越しに奥行きが感じられるようになって、全然印象が変わりました。スラブが地面から盛り上がってきて、その中にいろんな部屋や空間が見えるアリの巣のような地層を覗いている感じがして、すごくワクワクしました。この土地の持ち主はIMAXさんですが、プロジェクトリーダーの齋藤さんとも「地層が積み重なっているような感じが面白いですね」と話していたんです。

松崎 プランの当初から「サードプレイスをつくりたい」という想いをIMAXの齋藤さんとも共有していて、だから商業施設づくり以前に、“人が過ごせる場所”がどういうものかを皆さんで一緒に考えて、設計にも託してきた。結果的に、とてもいいのができたと思っています。
寺田 駒沢の駅前は、近隣の街と比べても、どうしてもアイデンティティが弱いですよね。
松崎 そうなんです。駅を降りる人の目的地がほぼ駒沢公園なので、だからこそ“駒沢公園の玄関口”のようなものをつくれたらいいなと思っていました。朝田さんは、最初から「公園のような建物にしたい」と言ってましたね。提案から完成までに4年間、毎週じっくり応答を積み重ねていきましたけど、よくよく考えたら最初の骨格からあまり変わってないですね。

朝田 はい。コンペ段階から「半外部空間」を使った商業施設と、駅を降りたら駒沢公園の入り口だと分かるような「緑のファサード」を提案していました。駒沢の街のスケール感と、公園という地域の資源みたいなものがうまくマッチすればなと。
松崎 まさにその通りになりましたよね。オープンなテラスに囲まれて、その中に自然と店舗がハマるような、言ってみれば商店街が積み重なってるような理想としていたイメージになりました。商業施設の事業収支だけを考えたら、あまりないタイプの建物なんです。今回は「駒沢にふさわしい建物をつくってほしい」というオーダーがあったので、建物として“在るべき姿”を優先してつくることができました。
寺田 そういう意味では、すごく幸せなプロジェクトですよね。もちろんコストや法律といったいろんな制約はありますが、純粋に街と建築の関係という切り口で、設計者が自由に提案できたんですね。
朝田 やっぱりこのプロジェクトにかかわる皆さんが「駒沢の街があってこその事業」だという意識を最初から持っていたのが大きかったと思います。「街にとっていいものをどうつくるか」を、第一に考えられた結果ですね。

松崎 特に今回は、駒沢大学駅から駒沢公園へ続く自由通りを、建物のプロジェクトだけでなく「街の皆さんと一緒に良くしていきたい」という思いが最初の手がかりになりました。朝田さんの提案する「立体的な公園」というコンセプトは、最初から非常にしっくりきて、ぶれずに最後まで一貫していけたのが本当に幸運でしたね。本来であれば、事業性や効率性、管理面などの合理的な意見で、どんどん優等生的にそつがないものになってしまうんですが、今回はぼく自身が「最初の良さをどうにか守っていきたい」という思いで、サポートしていました。
朝田 意図的に踏み外している部分はあって。でも、少し型からはみ出すぐらいの設計をしないと楽しくないと思うんです。
あえて“ムラ”を残すという選択
松崎 AIが全盛になって、物事をすべて合理的に考えていく時代に、少しはみ出すことに、人の心を動かすものがあると思うんですよね。そのひとつの要素として、「完成した建物はピカピカで綺麗なものではない方がいい」という思いがあったんです。鹿島建設さんには難しいことを言ったかもしれませんが、ある程度の時間が経って生まれる“汚れ”や“ムラ”を、積極的に残したいとお願いをしました。
朝田 うちの会社が一番苦手なタイプのお願いですね(笑)。

松崎 最終的には、少しの汚れや人の手跡が残る“ムラ”が魅力になることを皆さんに理解してもらえました。結局、建物は10年、20年、50年と、どんどん経年変化をしていくものなので、最初が美しいことには大した価値はないと思うんです。だから駒沢パーククォーターも、“20年前から駒沢にあった”ぐらいの意識で迎えられたらいいなというふうに思っています。
朝田 ぼくも設計において、いわゆる“建築のボキャブラリー”じゃないものでつくりたいとずっと思っていました。例えばランドスケープのような建築というか。
松崎 いいですね。
寺田 そういう意味では「地面からアリの巣が下から盛り上がってきた」という印象は、すごくしっくりきますね。
松崎 そうですね。あの建物について、いろんな方からの感想を耳にするんですけど、「期待していたものに近い」と聞くんですよ。期待といっても人それぞれ違うはずなんだけど、ここにあってほしいものを潜在的に思い浮かべたときに、意外と皆さんの中で共通してるイメージがあるのかもしれません。駒沢のあの建物を見て、皆さんが素直に「いいな」と言ってくれる良さがあることを、今回の建築では目指してきていました。なので、これから時間をかけて面白いものに育ってほしいですね。
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明日の後編に続きます

      松崎宏二氏 / koji matsuzaki
世田谷の上野毛で生まれ、幼少期を過ごしました。大学で建築設計を学び、建築設計事務所に就職。帝国ホテル大阪、名古屋カルポート東、エスパルスドリームプラザ、横浜ベイクォーターなどの建築設計を手がけてきました。建築だけでなく、映画、文学、海外旅行、そして日本の伝統工法の木造建築をこよなく愛する者の一人です。
      朝田亮氏 / ryo asada
鹿島建設株式会社・建築設計本部 ・建築設計統括グループ・グループリーダー。「桜新町で生れ育ち、深沢に住んで17年になります。スタジアムや超高層ビルなど様々なプロジェクトに携わり、現在は東京ミッドタウン日比谷やTORAYA Ginza Buildingをはじめとした商業建築を中心に設計に取り組んでいます。
      寺田幸司氏 / koji terada
駒沢在住のサラリーマン建築家。中古のマンションをリノベーションし、桜新町から駒沢に引っ越して早16年。もう少しで愛知の生家より長くなります。その他には札幌とロンドンに居住。大学では都市と建築について学び、直接設計を行う機会はなくなりましたが、人と建物、人と都市にずっと興味を持って関わっています。
文・lee senmi / 人物写真・wakana baba / 外観写真・ikuko soda / 撮影協力・SHARE LOUNGE
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