10年、20年、30年と、駒沢の人たちと一緒に育てていく面白さ。「KOMAZAWA Park Quarter」たてもの対談。<後編>

インタビュー

11月11日にオープンする「KOMAZAWA Park Quarter 駒沢パーククォーター」の建物について語る対談の後編。イメージは、ニューヨークの“あの場所”にあったそうです。

目指すはニューヨークのハイライン

朝田 駒沢の駅前は、首都高速道路の存在感がある一方で、駒沢公園へと続く自由通り自体は、案外ヒューマンスケールで、落ち着いた街並みなんです。そのギャップが面白くもありつつ、どちらかに寄せすぎると、ちょっとつまらないという思いもあって。だから高速側は、例えばNYのハイライン(*)のように、都市のインフラが緑化されていくような雰囲気を意識しました。そこから自由通りに向かうにつれて、オープンなテラスや緑が広がって、街に馴染んでいく。それがあまりあざとくなく表現できるところを目指しました。

*ニューヨークにある、廃線の高架貨物鉄道を再利用したユニークな空中公園。都市の喧騒から離れ、緑豊かな散策路として生まれ変わり、街の活性化に貢献している。

※写真提供:寺田幸司さん(撮影地:ニューヨーク・ハイライン)

松崎 まさにそうなっていると思います。首都高のダイナミックさと自由通りの落ち着いたスケール感がちょうど折り合っているようなバランスがあって、中に入ってみると路地のような親しみを感じるんです。

寺田 ちょうど先週10年ぶりにNYのハイラインを歩いてきたんですよ。2009年のオープンから何度か訪れていて、行くたびに街も植栽も成長していて、今回も昔の写真と見比べたら「本当に同じ場所?」と思うくらい変わっていました。街と植物の成長とともに、人々がハイラインの可能性を見出して使っているからだと感じました。

その感覚で今日この場所を歩いてみると、階段やテラス、裏のスペースなど「ここはこれからどう使われていくんだろう」と想像がふくらみました。訪れる人がそのスペースをうまく使ったり、植物が育っていくと、少しずつ姿を変えていく。そんな余白のある空間が生まれたのが、すごいことだと思います。

松崎 ハイラインも15年経つんですよね。私たちも年月の積み重ねが、ちゃんと良い変化になっていくような建物を目指しました。多くの商業施設は15年も経つと古びて「そろそろ建て替えかな」という話になりがちなんです。そうではなく、5年、10年、20年と時間を重ねることで、いい時間が蓄積して少しずつ魅力が増していく。そんな“育っていく建築”になればいいなと、今からワクワクしています。

階段と風景が語る建築

松崎 この建物は「階段で上り下りする」ことをある程度前提としている設計なんです。「階段をつくっても誰も使わない」という考えが一般的でしたが、ここならきっと使ってくれるんじゃないかという期待があります。駒沢の人たちだからこそという期待も。

朝田 ぼくも使ってくれる気がします。実際どのぐらい使われるのか、興味津々ですね。

松崎 駒沢公園に来る人は健脚な方が多いですから(笑)。あの階段を行き来する姿が建築の一部になると思います。夜になると照明がついて、段と段の隙間から光がこぼれるデザインもすごくいいです。

朝田 階段をのぼる時も光によって一段一段のステップがちゃんと見えるようになっているんです。

寺田 夜に照明が付いたときに、階段が綺麗に見えてびっくりしました。昼間は馴染んでいる階段が、夜になると語り出すような雰囲気があって、印象が全く違うんですよね

朝田 手すりはメッシュになっているので、将来的に植栽を絡めたり、サインを付けたりできる余白を持たせたんです。

松崎 もしかしたら、あの手すりも将来、植栽が埋め尽くしてくれるかもしれません。時間が蓄積されていくなかで、普通は「きれいに保たなきゃ」と考えがちですが、今回は“付け足していくメンテナンス”という発想で、いろいろ付加できる要素を考えていただいたんです。

朝田 例えばテナントの方たちが、「ここはバラがいい」とか、自分で好きなプランターを絡めたりする展開が起こると嬉しいですね。

松崎 やっぱり「時間の蓄積」と「自然であること」の二つが、駒沢公園のような場所の心地よさの本質だと思います。商業施設開発の世界ではよく「環境デザイン」という言葉が使われますが、「英国風」や「昭和レトロ風」などといった、取ってつけたような商業コンセプトやイメージが必要だという常識があります。でも今回はそういうものはまったくなく、その点でも稀有な商業施設になるかと思います。

寺田 確かに。商業施設を見た印象だと、純粋に空間と建築の関係への問いに対して、真剣に答えてたものができているように感じました。

松崎 いまは一般の方たちも装飾的なものに慣れていると思います。ですが、何もないけど場所として「何かいいな」と思ってくれる人が、たくさんいることを期待したわけですね。

外からは伝わらない? 中に入ってこそ伝わる魅力

朝田 個人的には、商業施設としての機能性とかコンセプトを論理的に考える反面、やっぱり直感的に「かっこ良くなきゃダメだ」という思いもあって。いつも両方を行ったり来たりしながら「あーでもない、こーでもない」と試行錯誤を重ねていましたが、最後にはなんとかなったという手応えがあります。

松崎 かっこいい部分を、隠せてるところがいいと思うんですよ。見せないかっこ良さがありますね。見た目を取り繕うような発想で考えられてないところが、一番かっこいいんです。

朝田 今後の建築には、表面的な見栄えよりも体感する気持ちよさが、求められていくと思っています。ぼくは軒(のき)が深い建築は日本にすごく合ってるんじゃないかとずっと考えていて。直射光があたるオープンスペースは、長くいるには意外と居心地がよくないことがあります。こもれびの下のように、日陰がありつつ風が通る場所は、寒い時期でも居心地がいい。今回そんな建築を目指しました。

松崎 いわゆる伝統的な建築で例えるなら縁側空間ですね。外部なんだけど、内部と外部の境界を曖昧にした、パブリックでも、プライベートでもないようなスペースが最大の特徴ですよね。

朝田 快適にバッチリ空調されてる空間もいいんですけど、暑さと寒さもありつつ、風が抜けているような空間が、実は人間にとって心地よいことが多いんじゃないかと。

松崎 あとは写真写りにこだわる建築が多いなかで、「ここがベストショット」だというこだわりよりも、シークエンス(連続性)のなかで心地よいことが重要だと思っています。今回の建物はまさにそうなっていて、顔がないというか、どこを撮ればベストというのがないですよね。

寺田 ハイラインも一緒ですよね。ワンショットでは捉えきれない魅力がある。日本建築って、本来は“シークエンスで感じる建築”なんですよね。歩きながら少しずつ風景が変わっていく、その連なりの中で感じる心地よさこそが、人間にとって一番自然で、ヒューマンスケールな魅力だと思うんです。一方で、ドンと構えたファサードが「かっこいい」というのは、実は人のスケールとは別の次元のかっこよさなんです。そうしたことを理解して、それを実際に形にしてくれる設計者がいるというのは、本当に嬉しいですね。本当なら“見せ場をつくって写真映えする建物を”と考えがちなところを、朝田さんは先ほどおっしゃっていたように、試行錯誤しながらも、あえて抑えてくれた。その“抑える勇気”が今回とても良かったと思います。私はこの建築は、十分に成功していると感じています。

松崎 日本建築というのは、本来そうなんですね。シークエンスで感じる建築というのが、人間にとって一番気持ちいいものであって、ファサードがかっこいいというのは、実はヒューマンスケールと違う次元のかっこ良さなんです。なので、竣工写真でありがちな「ここが正面です」というこだわりない建築の方が、実は魅力的だと思っています。だから今回は、写真に苦労するんじゃないかな(笑)。

寺田 反対に写真だけ見ると、魅力が伝わらないでしょうね。

街の人たちとともに、これから育っていく場所へ

寺田 地元民として楽しみにしてます。これまで単なる通過点だった交差点に、立ち止まれる懐ができたのは嬉しいことです。イベントで駒沢に訪れる方も、ふらりと寄ってくれるといいですね。

朝田 今の駒沢大学の駅前はパブリックスペースがないので、特別な用事がなくても、ちょっと立ち寄ってのんびりできるような場所になると嬉しいですね。そんな場所が少しでもあると、建物の中じゃないところにアクティビティが生まれて、それが広がって街になっていく気がしています。

松崎 ここでいろんなアクティビティやイベントが続いていくことで、通常の商業施設と違う場所が、駒沢の駅前にあるというふうに認識されていくといいですね。そのためのスペースはいっぱいあるので、これからどう育っていくか楽しみです。朝田さんも寺田さんも、ご近隣のひとりとして末永く、温かく見守っていただければと思います。

寺田 もちろん。ご近所ですから。

朝田 イチ利用者としても楽しみにしています。

松崎宏二氏 / koji matsuzaki

世田谷の上野毛で生まれ、幼少期を過ごしました。大学で建築設計を学び、建築設計事務所に就職。帝国ホテル大阪、名古屋カルポート東、エスパルスドリームプラザ、横浜ベイクォーターなどの建築設計を手がけてきました。建築だけでなく、映画、文学、海外旅行、そして日本の伝統工法の木造建築をこよなく愛する者の一人です。

朝田亮氏 / ryo asada

鹿島建設株式会社・建築設計本部 ・建築設計統括グループ・グループリーダー。「桜新町で生れ育ち、深沢に住んで17年になります。スタジアムや超高層ビルなど様々なプロジェクトに携わり、現在は東京ミッドタウン日比谷やTORAYA Ginza Buildingをはじめとした商業建築を中心に設計に取り組んでいます。

寺田幸司氏 / koji terada

駒沢在住のサラリーマン建築家。中古のマンションをリノベーションし、桜新町から駒沢に引っ越して早16年。もう少しで愛知の生家より長くなります。その他には札幌とロンドンに居住。大学では都市と建築について学び、直接設計を行う機会はなくなりましたが、人と建物、人と都市にずっと興味を持って関わっています。

文・lee senmi / 人物写真・wakana baba / 外観写真・ikuko soda / 撮影協力・SHARE LOUNGE

『今日の駒沢』編集部

駒沢エリアの情報を発信するウェブマガジンの編集部です。駒沢大学駅に隣接した商業ビルの運営・施設管理・テナントへの賃貸業務を26年、株式会社イマックスが、駒沢エリアに住む人、働く人、活動する人…とたくさんの市民の方々と一緒に運営しています。「駒沢こもれびプロジェクト」を通じて、駒沢エリアに関わるすべての方々に役立つ情報を発信しています。

202511
SUN
MON
TUE
WED
THU
FRI
SAT
26
27
28
29
30
31
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
1
2
3
4
5
6