前編では、ガーデンデザイナー・長濱さんが大切にしている考え方や、駒沢パーククォーター全体の植栽計画についてお話を伺いました。後編では、どのようにしてこの道に進んだのか、そして商業施設を訪れる人へのメッセージをお届けします。
外資系企業からの転身 「植物的思考」という新しい軸
長濱さんは、独学で植物や庭の知識を学ばれたそうですが、この道に進んだきっかけはなんだったのでしょうか。
【長濱】もともとは外資系IT企業のサラリーマンでした。システムエンジニア(笑)。とくに仕事に不満もなく毎日楽しく過ごしていたのですが、ふと違和感を感じて、次を決めずに辞めてしまったんです。29歳無職です。そのころ、縁があって庭のある集合住宅の一室を購入して、庭づくりに3年くらい没頭しました。
最初は当然うまくいかないわけです。本を借りて調べて試したり、というトライ&エラーを繰り返しました。いろいろとネガティブなことも起こるのですが、植物の変化が楽しくて! 植物の育ち方や季節の移ろいを、自分の目と手で確かめながら覚えていきました。

そこからガーデンデザイナーを目指したのですか。
【長濱】実はそういう職業があることも知りませんでした。でも友人宅の庭づくりをいくつか依頼されるようになって、自然な流れで仕事になり、会社を立ち上げたという感じです。
外資系IT企業からガーデンデザイナーへの転身は、ある意味、真逆の方向に進んだように感じますが。
【長濱】180度の方向転換ではないかとよく質問を受けます。確かに一見全く違う分野ではありますが システムエンジニアの時に必要だったITの知識や技術が、現在は植物や土木や建築の知識や技術に取って代わったように思っています。どちらも何故? と思うことを探求したり、現状を深く観察したり、トライアンドエラーを繰り返しながら問題を解決していく行為は同じ感覚です。専門的な学校に通ったわけではなく、日本や海外の庭園や建築を見て周り、図鑑を持って山に入ったり、生産者の方に会いに行ったりしました。またすこしずつ庭づくりの現場に入り、職人さんたちに学びながら経験を重ねてきました。

そこまで没頭できる魅力は、どこにあるのでしょうか。
【長濱】植物の持つ魅力と、庭づくりに終わりがないことです。植物は同じ種類であっても、生育年数や環境によって、その形状や大きさ、葉や花の色が違ってきます。植えた直後の姿と、年数が経過して株が充実した姿とでは全く異なることに最初は驚きました。特に宿根草は冬は地上部が全て枯れてなくなります。 知識として理解していても、春にぐっと力強く新芽が立ち上がってくると、毎年のことでも感動します。それぞれの植物が持つ本来の美しさを引き出すのには時間が必要で、その変化し成長していく様に 飽きることがありません。
園芸は単なる趣味として語られがちですが、私はアートだと思っています。
植物を扱う仕事は、想定外のことも多く起こりそうですが、どのように対応していますか。
【長濱】植物と向き合うことは自分の内面との向き合うことだと思います。上手くいかないことがあっても植物が相手だと誰のせいにもできないですよね。「どうしてもっと早く気づけなかったんだろう」と内省し、観察して試して待つこと。正解がすぐにはわからないことの方が多いです。そうした植物を育てる行為が根源的な癒しに繋がると思います。

例えば、失敗があってもそれを糧にするということですか。
【長濱】後悔や反省、喪失感と向き合いながら、次はどうしたらうまくいくだろうと勉強したり、試したりして次に生かすことが大切なんですよね。 失われたものは戻らないけれど、その経験を通して、また種から芽が出る瞬間を目の当たりにしたり、植物が以前より生き生きしたり、と植物の成長に寄り添うことが再生に繋がります。植物に関わっていると、小さな庭であっても、失われてそして再生する、そんな生命のサイクルを体感できます。私たちも同じサイクルにいることを想うとき、心の平穏を感じ、癒される、そこが植物に惹かれる理由かもしれません。

すごく深いところまで考えていらっしゃるのですね。
【長濱】今求められているのは物質的な豊かさではなく心の豊かさだと思います。人と比べた優位性を得ようとするのではなく。「植物的思考」で、与える方が幸せだということに気づいたんです。
「植物的思考」とはなんでしょうか。
【長濱】植物って、人に対して与えることしかしていないんですよね。 雨が降ったら水を吸い上げて地盤を保ってくれて、葉は木陰を作ってくれて、実がなったら動物や人に恵みを与えてくれて、蒸散活動による気化熱で気温を下げてくれます。落ち葉は腐葉土になって新たな命の源になってくれます。自分ができることをコツコツと続けてていってそれがいつか誰かの役に立ったらいい、とそんな考え方ですね。大変なことも辛いこともありますが、良いことにも悪いことにもいつも感謝の気持ちを持って、物事に接するようにしています。

触れて、感じて、育てる植栽を、みなさんと一緒に
駒沢パーククォーターの植栽が、街や地域、訪れる人々にどのような影響をもたらせたら良いとお考えですか。
【長濱】忙しい日常の中で、少しでも「自然と繋がる時間」を感じていただけたら。緑のそばで少し立ち止まってほっと一息ついてもらったり、花の香りや風や水の音を感じる、そんな一瞬が、人の心をやわらげ、忙しい街 の全体の空気を少し変える力になると思っています。植物に少しでも興味を持ってもらえたら、なおうれしいです。ミカンやレモン、ブルーベリーの原種も植えているので、子ども達が実際に触れて、時には実を摘んだり、五感を使って楽しんでもらえたらと思います。

見るだけでなく「触れて感じる植栽」ですね。
【長濱】そうですね。飾りとしての緑ではなく、成長と変化を五感で感じる庭です。植物の成長を阻害しない程度なら触れて感じてもらいたいです。 根草も多く植えているので、育ったらお客さまや地域の方に株分けする「育てる植栽」もいいですね。一緒に草花の話をしながらメンテナンスをする、そんな参加型のイベントもやってみたいです。
みなさんが株や剪定後の枝を自宅に持ち帰って、駒沢パーククォーターの植物たちが街に広がっていったらいいですね。
【長濱】そうなんです。ここが、みなさんと植物が関わる場所になって、日常にちょっとした潤いや驚きが広がる、そんな場所になったら素敵だと思います。植物たちもここに来てはじめてのシーズン。これから落葉し寒い冬を越えて来年の春の芽吹きが私も楽しみです。ぜひ季節ごとに変化していく植物たちを見に来てくたさい。

長濱香代子
1990年同志社大学哲学科卒業。日本アイビーエム株式会社勤務を経て、独学でガーデンデザイナーの道へ進 み、1998年 有限会社スタイルイズスティルリビングを設立。2011年6月長濱香代子庭園設計株式会社を設 立。ガーデンのデザイン、設計施工、メンテナンスまでを一貫して手がけている。 広く実践に裏付けのある植物の知識と、モダンなセンスで、個人住宅の作庭から商業施設のランドスケープまで幅広く活躍。現代のライフスタイルおよび住宅デザインに調和する庭づくり、自然度の高いランドスケープ によって、建築家とのコラボレートも多い。軽井沢に15年以上アトリエを構え、浅間山の南麓に、宿根草やスグリ、ルバーブなどを育てるファームを運営。また奈良県吉野町では築100年の古民家の再生を手がけてい る。
text/ shino iisaku photo/ ikuko soda
『今日の駒沢』編集部
駒沢エリアの情報を発信するウェブマガジンの編集部です。駒沢大学駅に隣接した商業ビルの運営・施設管理・テナントへの賃貸業務を26年、株式会社イマックスが、駒沢エリアに住む人、働く人、活動する人…とたくさんの市民の方々と一緒に運営しています。「駒沢こもれびプロジェクト」を通じて、駒沢エリアに関わるすべての方々に役立つ情報を発信しています。
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