「そこにあってよかった」と思える光をつくる。駒沢パーククォーターの照明デザインを手がけたtomoru design 目黒朋美さんが灯す想いとは【前編】

インタビュー

夜になるとやわらかな光に包まれ、昼間とはまた違った表情を見せてくれる駒沢パーククォーター。駒沢の街に寄り添うような印象的な照明を手がけたのが、照明デザイン事務所「tomoru design(トモルデザイン)」を主宰する目黒朋美さんです。

そもそも照明デザインとはどんな仕事なの? 人や空間を照らす照明にはどんな力があるの? 駒沢パーククォーターの照明に込めた想いや、細部に宿るこだわりについて、目黒さんにじっくりお話を伺いました。

照明デザインで生きていくと決めた20代

駒沢パーククォーターの建物は、昼と夜では異なった印象になるのが素敵です。夜に照明が灯ると、さらに優しい雰囲気になりますよね。

【目黒】そう言っていただけると、すごく嬉しいです。

照明には、空間全体の雰囲気をつくり出す力がありますよね。目黒さんの会社である「tomoru design」の「灯る」という印象に、かなり近いと感じました。

【目黒】やはり照明は、点灯して最初に光が灯った瞬間に、みんなが「ワーッ」と気づいてくれるんです。その瞬間が、私たちの最上級の喜びですね。「その瞬間を一緒につくりましょう」という思いを込めて、「tomoru design」という会社名にしました。駒沢パーククォーターにもそんな瞬間が生まれていたとしたら、本当に嬉しいです。

目黒さんは多摩美術大学のプロダクトデザイン出身ですが、照明の道に進まれたきっかけはなんだったのでしょうか?

【目黒】大学で学んでいたプロダクトデザインは、いわゆる工業製品のデザインでした。ただ、途中から毎年大量に消費されていくモノをつくることに、少し切なさを覚えるようになったんですね。

そんなとき、大学でメーカーの照明部門の方の特別授業を受けて。

灯をテーマにした課題に取り組んだんですけど、自分のエモーショナルな気持ちの高まりを感じたんです。照明デザインという世界を初めて知りましたし、とても自分にしっくりきて、すごく楽しかったんです。それに、人の暮らしに寄り添える息の長いデザインに携われることに魅力を感じて、照明の道を志すようになりました。

それが照明デザインというお仕事との出会いだったんですね。

【目黒】はい。大学を卒業してからは松下電工(現パナソニック)に新卒で勤めたあとに、アメリカと日本の照明デザイン事務所を経て、独立しました。20代の頃から「照明で生きていくんだ」と思っていましたね。

そう思うようになった、印象的な経験があったんでしょうか?

【目黒】照明デザインを生涯の職業にしたいと思ったのは、阪神・淡路大震災の後に開催した作品展でのことでした。当時勤めていた松下電工で、デザイナーひとりひとりが自由に発想して制作した作品を、大丸のアートギャラリーに展示する機会をいただいて。

私は人が近づくとセンサーが反応して動く照明をつくったんですけど、その作品を見たおばあちゃんが「この作品を自分の家に置きたい。震災で何もかも失っちゃったけど、これを見てるとすごくホッとする」とお話してくださって。照明には、そんな力があるんだなと感じました。その言葉がずっと耳に残っていて、今も私の原動力になっています。

照明によって、本当に気持ちも変わりますもんね。

【目黒】そうですね。寄り添ってくれるというか、きっとそういう感覚を受け取ってくれたのかもしれません。

それからたくさんの経験を積まれた目黒さんが、照明デザインをする上で一番大切にしてることはなんですか?

【目黒】いろいろありますが、やっぱり心に響くものを、何かひとつでもプロジェクトの中に織り込みたいという思いはすごくあります。建築化照明(照明器具を天井や壁、床などの建築構造と一体化させた照明手法)は綺麗にまとめることが必須条件ですが、もう一歩、エモーショナルな部分に訴えかけるような要素がプラスできたら、私たち事務所としても嬉しいですね。

あとは今回の駒沢パーククォーターもそうですけど、照明のエッセンスはその土地の特性と密接に関わっています。建築が持つ思いや土地によって、いろんなアイデアやバリエーションを生むことができます。それがすごく楽しいんです。自分も楽しみながら、関わる皆さんに「こんなアイデアはどうですか?」と提案するのも楽しいですね。

ふわっと内側から灯るような建物に

今回、駒沢パーククォーターの照明を手がけることになったきっかけを教えてください。

【目黒】設計を手がけた鹿島建設さんとはもともとお付き合いがあったんですけど、実はこれまで商業施設の仕事はあまり多くありませんでした。今回のプロジェクトでは、「商業専門の照明デザイナーじゃなくて、街の雰囲気も捉えながら照明を考えてくれる人に頼んだ方がいいのでは」と、鹿島建設の方が考えてくださり、設計担当の朝田さんに私を紹介してくださったみたいです。

「公園のような建物」というコンセプトがあったと思いますが、実際に照明デザインにおいて難しかった点はありましたか。

【目黒】いろいろありました。まず、建物の自由通り側と住宅側では、街の環境が全く違っているところです。自由通り側は少し明るめにして商業施設らしい表情をつくりつつ、住宅側に向けて徐々に暗くしていくという、光のグラデーションを意識しました。

植栽の照し方については、建物の設計にも影響を与えているニューヨークのハイラインを参考にしています。外から照らすというよりも、内側から柔らかく光っているような照明を目指しました。

確かに。ふわっと光っている印象ですよね。夜になると、より魅力が増してきて。優しさと、賑やかさとが一緒にあるような。

【目黒】嬉しいです。花が咲くようなイメージというか、英華発外(エイカハツガイ)という言葉をキーワードにしました。内にある美しさが、自然と外に表れるという意味の言葉で、まさにそのイメージを建物全体で表現したかったんです。なので、植栽はスポットライトで目立たせるよりも、ふわっと光を当てることで植栽が風にそよぐ空気感や、生命感が溢れる雰囲気が出るんじゃないかと、そんな照明にしています。

また、外からの見え方以上に、中にいる人がどう感じるかを大切にしました。駒沢パーククォーターを訪れた人たちのための、「植物を鑑賞するための照明」という考え方です。もう少し植栽が育ってくると、内側からの光を受けた表情も変わっていって、また景色も変化していくのではと期待しています。

それは植物の成長が楽しみですね。外にある階段の照明も夜になると、いっそう印象的です。

【目黒】回廊の階段は、特にこだわったポイントです。建物にまとわりついている階段を、夜には彫刻のように浮かび上がらせて、印象的に魅せることが大きなコンセプトでした。さらに、この建物には「歩いて健康になろう」というウェルビーイングの考え方もあるので、夜に階段が魅力的に見えることで、再訪のきっかけにも繋がるんじゃないかと。

コンセプト段階から皆さんでイメージを共有できるように、原寸大のモックアップ(模型)をつくったんですけど、デザイン性とコストのバランスを踏まえて、「機能照明」と「景観照明」を一体化させた提案をしました。

踏み面に光が現れることで、夜でも安心して歩けるという機能面に加えて、夜の建物全体の景観を印象づける役割も果たしています。

後編へと続きます。

目黒朋美

ライティングデザイナー

多摩美術大学デザイン科プロダクトデザイン卒業。松下電工株式会社(現Panasonic)勤務後、渡米。

2000年~2002年、アメリカ建築照明の草創期より活躍していたGrenald Waldron Associatesにて経験を積み帰国。2002年内原智史デザイン事務所に入所。多くの著名プロジェクトに携わり国内海外の多数の照明賞受賞に貢献。2007年~2016年の退社まで同社チーフデザイナー。2014年~2016年多摩美術⼤学⾮常勤講師。2016年トモルデザイン・メグロ株式会社設立。日・米それぞれの照明デザイン事務所での経験と照明メーカーでの勤務経験という独自のユニークな視点と幅広いプロジェクト経験をフルに活かし、景観照明や、複合施設、オフィス、ホテル、住宅など、多岐にわたる照明計画に参画。



text / senmi lee photo / Ikue takizawa

『今日の駒沢』編集部

駒沢エリアの情報を発信するウェブマガジンの編集部です。駒沢大学駅に隣接した商業ビルの運営・施設管理・テナントへの賃貸業務を26年、株式会社イマックスが、駒沢エリアに住む人、働く人、活動する人…とたくさんの市民の方々と一緒に運営しています。「駒沢こもれびプロジェクト」を通じて、駒沢エリアに関わるすべての方々に役立つ情報を発信しています。

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