
台湾の街角を思わせる、まっ赤な看板。蒸気とともに漂う、ほんのり甘い香り。世田谷・上町の「鹿港(ルーガン)」には、本場仕込みの肉まんを求めて今日も行列ができています。そんな“町の名店”が、2025年・11月にオープンする駒沢の商業施設へ初出店!
駒沢の路面店に、あの行列の味がやってきます。地域に根ざしてきた「鹿港」が新天地・駒沢で目指すものとはーー。店主の小林貞郎さんに、今の想いとこれまでのことを伺いました。
前編と後編に分けてお届けします。後編は明日!
どうして、今、商業施設への出店 を考えた!?
「鹿港」が商業施設に出店されると聞き、すごくうれしい!と思ったのと同時に、少し驚きました。いい意味で「町の肉まん屋さん」という印象があったのです。
【小林】そうですよねー。私たちにとっても、 そうとうに、大きな決断だったんです。
決めるまで、ずいぶんと悩まれたのではないですか。
【小林】 お話をいただいて、最初は「う〜ん」と。あまり前向きには考えていませんでした。でも、もしほかのお店が入ったら、悔しくて駒沢を歩けないんじゃないかと思うようになりまして(笑)。きっと後悔するだろうなと思って決めました。ここに至るまでは、思い直すことも挫折することもありましたけど、今はもう、腹を括って死ぬ気でやっています。
そこまでの覚悟! 最初は乗り気ではなかった気持ちが変化していったのはーー。
【小林】今、うちで一緒に働いている若い人たちに、私がリタイアしたあとにもつながるチャンスや機会をつくってあげたいとずっと考えていて。それができるのは今しかないのかな、と。あとは、豆乳文化をもっと広めたいと思ったこともきっかけでした。肉まん(肉包・ローパオ)と豆乳という台湾の食文化を、ずっと日本に紹介したかったんです。肉まんは上町で認知していただいたので、ここからは肉まんだけでなく、豆乳も紹介したいと思うようになったからですね。
今までも何度か商業施設などへの出店の打診があったと聞きましたが、今回、小林さんが出店しようと思った決め手はありますか。
【小林】 そうですね。こもれびプロジェクトのコンセプトに共感したというのが大きいです。「地元感」が強く、上町ともほどよい距離ですし、どちらもちゃんと満足のいくものが出せる。うちが出店するならここだなと思いました。やっぱり地元の人に買いに来てほしいし、商業施設であっても地元のみなさんの生活に根づいてほしいという気持ちが強くあります。

衝撃的なおいしさの肉包(ローパオ)と出合う
今や大人気、「鹿港」の代名詞でもある肉まんと饅頭(まんとう)とは、本場の台湾で出合ったそうですね。それまでは、日本語の先生をしていらっしゃったとか。
【小林】 そうなんです。そんなある休みの日、教え子たちから「先生、肉まんを食べに行こう!」と誘われました。でも聞いたら、私が住んでいた台南から車で2時間半もかかる鹿港(ルーガン)という街まで行くというんです。「なんで肉まんのためにそんな遠くまで行くの!?」と思いながらもしぶしぶついて行きました。そこで、出合ったのが「阿振肉包 振味珍(アージェンローパオ ゼンウェイゼン)」という店の肉包だったんです。
2時間半も! なかなかの長旅ですね。それだけの時間をかけて食べに行った肉まんはいかがでしたか。
【小林】 それが、もう、ものすごくおいしくて衝撃的で! 「阿振肉包 振味珍(アージェンローパオ ゼンウェイゼン)」は台湾では有名な、行列の絶えない肉包(ローパオ)と饅頭(マントウ)のお店です。夕方には売り切れてしまうんです。「もっと食べたい、もっと買って帰りたい」との思いを果たせず、それからずっとあの肉包のことが忘れられませんでした。
そこですぐに肉包を学ぼう、お店を開こうと思い立ったのですか?
【小林】 いえいえ。自分でお店を開くことなんて考えていなかったし、これからも日本語教師をやっていこうと思っていました。でも、日本に帰国したあとも、ふとあの味を思い出してしまうんです。それで、中華街に行ったり、有名店から取り寄せたり、同じような味を探したのですが、どこにもないんですね。
「あの味」を求めて、いろいろ試されたのですね。すでに10年ほど経っていたとか。
【小林】 ずいぶん探しました。最終的には神戸の中華街まで行きました。でも違うんです! そのとき、その場で、一緒にいた家内に「肉まん屋をやる!」と宣言しました。家内は私の性格をわかっていますから「言い出したら聞かないな」という、なんともいえない表情をしていました(笑)。

台湾に何度も通って修行したいと直談判
その後、「阿振肉包 振味珍」で修行を許されるまでを教えてください。
【小林】 宣言したはいいものの「振味珍(ゼンウェイゼン)」に知り合いがいるわけでもなく、どうやって「あの味」にたどり着く技術を教えてもらえるのかわかりませんでした。ですからまずは行ってみた。2泊3日で台湾に行って「お願いします」と言う。そして断られる、というのを3回繰り返しました。
台湾まで行って直談判を3回も! ものすごい熱量ですね。そして3回断られたら、あきらめた……?
【小林】 いや、「学びたい」という思いが強くてあきらめられなくて。それで4回目は家内を連れて行って、一緒に頭を下げてもらいました。でも断られてしまったんです。ただ、その日はもう夜も遅かったので店の近くで一泊して、次の日に改めて帰国の挨拶をしに行ったんです。そうしたら、その朝は、日本の和菓子を学んだことがあるというおじいさんが店にいたんです。そのおじいさんが「教えてあげなさい」と! その鶴の一声で修行ができることになリました。
熱意が縁を引き寄せましたね。
【小林】 本当にたまたまで、ツイていましたね。日本人で唯一修行を許してもらったのが私。そこからは家族同然に接してくれたことに感謝しています。修行を始めてすぐにレシピをくれて、ご飯も住むところも提供してくれました。

この先、小林さんは、どのように上町のお店の開業にこぎつけたのでしょうか。後編に続きます。<明日公開!>
手作り台湾肉包“鹿港”(ルーガン)
東京都世田谷区世田谷3-1-12
https://www.lu-gang.net/
・営業時間 9:00〜 売り切れ次第終了
・定休日 木曜日・第2・4水曜日 ※7・8月は毎週水・木曜日休み
*詳しい店舗情報についてはホームページをご覧ください。
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text / shino iisaku photo / eriko matsumoto
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