
2025年秋に駒沢大学駅前にオープンする商業施設に、2号店をオープンすることになった「本格中華 包(つつむ)」。後編では、駒沢出店への抱負から始まり、何度失敗しても諦めない石野さんの経営哲学と、若者をサポートする想いについてお伺いしました。

スケーターの聖地、駒沢で
改めて「包」という名前の由来をお聞きしたいです。
【石野】お店やブランドをネーミングする時に、みんなかっこいい名前をつけたい欲が出ると思うんですけど、ぼくはお客様が愛せるキャッチーなものであるべきだと思っています。5つブランド展開をしている中の、1店舗目のつけ麺屋さんは「すする」という名前にしたんですよ。名前だけで、すぐに麺類のお店だと分かるじゃないですか。そのおかげで、すごく浸透していったので、「餃子を包む」ところから「包」という名前をつけました。
確かに、わかりやすいです。そんな包の2号店を、駒沢の新たな商業施設に出店することになったきっかけは、なんだったんでしょうか。
【石野】ぼくたちは世田谷区と目黒区をカルチャーゾーンとして捉えています。そのなかで駒沢での出店はずっと考えていました。なぜなら駒沢公園は、東京におけるスケートスポットの聖地だからです。駒沢でやりたいと思っていたところ、ちょうど出店のお声がけをいただきました。

2023年頃のとあるインタビューでは、下北沢か駒沢大学駅周辺に出店したいとおっしゃっていましたが、まさにですね。駒沢の店舗の構想を教えてください。
【石野】今のお店と変わらない雰囲気で、メニューも基本的に全く一緒です。包では半年に一度、ストリートカルチャーに関わる人たちを200〜300人集めたイベントを開催しているんですが、駒沢でも何かイベントができると嬉しいですね。例えば、商業施設の屋上でスケートボードのコンテストを開催するとか。ぜひご相談させてください。
たくさんの失敗の上に、いまの包がある
店舗のネーミングのつけ方やターゲットの視点など、とても戦略的に店舗を展開されていると感じます。そういった視点は、どう培われていったものですか?
【石野】たくさん失敗したからです。駒沢の店舗を含めると飲食店を6店舗運営していますが、そのなかでも6度のブランドチェンジを重ねています。いまはどれも繁盛店なので、周りからも「すごいですね」と言われますが、諦めなかったからです。6回失敗している間に、マーケティングについても料理についても、たくさん学びました。

諦めずに行動し続ける原動力はどこにあるのでしょう。
【石野】料理が大好きなのと、自分のやりたいことをやるためです。実は17歳の頃に、1ヶ月間ニューヨークに滞在したことがあって。そこで出会ったレストランのようなお店を、いつかやりたいと思っているんです。
どんなお店だったんですか?
【石野】ブルックリンにある「The River Café 」というお店です。カフェという名前ですがミシュランの星付きのレストランで、そうとは知らずに入ったんです。というのも、道に迷っている状況でトイレをしたくなったので、ドアマンに「コーヒーだけもいいですか?」と聞いて。「ちょっとボスに聞いてきます」と、玄関に行くんですけど、ボスっていうのはそこにいた猫だったんです。猫に「ボスいい?」と聞いていて、おしゃれなことをしたんですよ。
わー。とても粋。
【石野】それでお店の中に通されたら、大きな窓から川とブルックリン橋を一望できて、大きなグランドピアノが置いてあるレストランだったんです。めちゃくちゃ緊張しながらコーヒーを飲んだんですけど、バーテンダーの人が気さくに話しかけてくれて。そんな体験をしたときに、いつかこういうお店をやりたい。そのためにいろいろ挑戦すべきだと思ったんです。
若者にも隔てなく接してくれるお店だったんですね。
【石野】実は去年の年末に、そのお店に行ったんですよ。スケーターの息子が17歳になったので、そのお店を見せたくて。あとは、今だったらちゃんとご飯が食べれると思ってニューヨーク旅行の時に訪ねたんですけど、4人で30万円かかっちゃいました(笑)。
かっこいい大人としての義務を果たす
石野さんのような生き方は、若い人たちにとっても希望になりそうです。
【石野】ごく一般的なキャリアアップをしてる方とは全く違う人生を歩んでると思います。そもそもキャリアアップを目指す人たちは、失敗をしないように生きるじゃないですか。でも僕の場合、失敗は大前提なんです。失敗から何を学んで、どう生かしていくか。それが事業を豊かにしていくことに繋がるので、挑戦することになんら抵抗がないです。
お父様もそうだったのでしょうか?
【石野】おそらくそうだと思います。包を成長させていきたいという気持ちには、もうひとつ大きな思いがあって。ぼくにとって父はヒーローで、ずっと父を目指して生きてきたんですが、8年前に亡くなって。その時、父がそのタイミングで亡くなったことで、彼の人生が失敗だったと世の中に思われるのは絶対に嫌だと思ったんです。だからこそ、「父がいたから今の自分がある」と思ってもらえるように。中華の業態に本気で取り組もうと、その思いに突き動かされながら生きています。

このまま止まることなく進み続けるんだなと、すごく感じます。
【石野】父もそうだったのですが、僕は若い子たちをどうフックアップできるかをすごく考えています。我々おじさんは、若者の希望でなきゃいけないと思っているんですよ。でも今って、ああいう人になりたいと目指せるような大人が少ないじゃないですか。僕らの世代には豪快にやりきっている人やかっこいい人はいっぱいいたんですけどね。
僕はサーフィンも大好きなんですが、自分にできることとして、サーフィンを頑張ってる子たちのサポートもしています。サーフィンのコーチをふたり雇って、地域の子どもたちが世界にいけるような仕組みを作ろうとしています。一緒に海に入って遊んでる時でも「僕に忖度しないでね」と伝えて、波を本気で取り合っています。そういう時間が一番楽しいんですよ。そういう若者にとって希望になる環境を作るのも、大人のあるべき姿だと思います。

石野さん自身も、子どもたちからの刺激を受けているんだなと感じます。
【石野】自分の中で決めていることがひとつあって。僕に学歴がないからかもしれませんが、年齢で上下関係を決めないようにしています。だって12歳でも僕よりサーフィンうまい子がいるし、知識が豊富な子もいます。年齢ではなくリスペクトできることを見ていますね。
素晴らしいですね。カルチャーであったり中華を、本当に愛していることが伝わりました。
【石野】飲食の世界を愛してますし、自分のカルチャーを落とし込んだ包というブランドを愛しています。もっと世の中に広めていきたいので、僕たちのカルチャーに賛同していただけるようなお客様がきていただけたら嬉しいです。

本格餃子「包」-TSUTSUMU-
東京都目黒区大橋2-22-7 村田ビル 1F
https://tsutsumu-gyoza.com/
・営業時間 11:30〜23:30
・年中無休
*詳しい店舗情報についてはホームページをご覧ください。
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text / Lee senmi photo / eriko matsumoto
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