第50話

そこから出たい人ももちろんいると思うし、ここにずっといることが尊いともあんまり思ってないんですけど

話し手
40代女性
聞き手
薮下佳代

 深沢ってわりあいと、等々力あたりから桜新町までと広くって。わたしは駒沢公園に近いエリアに住んでいました。引っ越してきたのが、もともとおじいちゃん、おばあちゃんの家だったんですよ。実際に住み始めたのが5歳とか? 大学でひとり暮らしをしつつ、大学院終わって社会人になってから完全に家を出た感じで。 清澄白河とかあっちの方に引っ越して。結婚したあと戻ってきた感じ。いまも三茶と駒沢の間に住んでます(笑)。

戻ってきた理由って?

 なんでしょうねぇ。やっぱり…空気感がしっくりくるというか。ちょうどいいんですよね、この辺って。子どももいっぱいいるし、生活もしやすいし、飲み屋も多いし。渋谷も二子玉も近いし。ほかのところに行く選択肢がなかった。なかったっていうか、あえてここに住みたいみたいなのは特になくて。居心地よくて戻ってきちゃいました。

でも、ご自身はこちらの方が馴染みがあるけど、ご家族はどうだったんですか?

 夫はもともと地方の出身だから、あんまり東京っていう土地の「ここがいい」みたいなこだわりがない人なんですよね。じゃあここ住むかっていう感じで…「まあいいよ」って。ああ、そうだ、思い出してきました! おっきな公園があるっていうのが結構プライオリティが高かったんですよ。そうすると駒沢公園。犬が好きだから。いまも飼ってるんですけど、駒沢公園いいよねって。ドッグフレンドリーな街ってわりあい限定されちゃうんですよね。駒沢がいい気がしたんですよね。いろいろ見てても。昨年、引っ越したんですけど…。

この辺で?

 同じマンションで引っ越しました(笑)。生活圏を変えたくなくて。お気に入りスポットがいろいろありすぎて変えたくなくて。Z軸を変えただけ。X軸、Y軸は変えず(笑)。もっと大きな部屋に変えました。引っ越しはそれなりに大変だったけど、気持ち的に楽だった。当然、保育園も変わらなければ、行きつけのお店も変わらなければ、なんなら駐輪場とか駐車場も動かさなくていいし、非常によかったです。

それも一緒くたにして、しみじみとおもしろい

そこまでして変えたくない、お気に入りの理由って?

 なんか…ゆる〜くつながる人間関係みたいなのありませんか? そこにずっと住んでると。名前は知らないけど、絶対に会うマルチーズ飼ってる人とか(笑)。もう5年、へたしたら10年、朝、同じ時間にレジ打ってくれるコンビニの人とか。名前も知らないんだけど、なんとなくゆるいつながりがあることで居心地がいい…って感じ?

 新しいところに行って、それをまたイチからつくるのがちょっとめんどくさいなって思うのもあったんですよね。ライフイベントが重なる10年だったりしたので。結婚とか、子どもとか。子どもふたりいるんですけど…子どもを産んだら見えた世界みたいなのがやっぱすごいおもしろくて。それも維持したかったのがありますね。

 フルタイムでずっと働いてきていて、日中はあんまり外に出ることがなかったわけですよ。仕事で大人としゃべる時間がすごい多かった。一方で、こういう場所(世田谷区立教育総合センター)があるとか、昼間の時間帯に遊んでる子どもがいるとか、ぜんぜん知らないできちゃったから。「ああ、私の世界は狭かったんだ」みたいな。働いてると、社会をまわしてるみたいな気持ちになることがあるかもしれないがしかし…いやそうではないなっていう自戒を…しましたね。

見えてないだけで、実はめちゃくちゃ広いっていう。

 そう、そうなんですよ。すごい子どもは欲しくって不妊治療もして、授かって。でも、子どもを産んでみたら、見える世界がガラッと変わってしまった。まず自分の…よく言う話ですけど、これまで「私」が主語だったものが、気がついたら「子ども」が全部主語になってるみたいな。女の人っていうのは子どもを産むと、たぶんアイデンティティクライシスが、一回起こって。そこから再構築して、また社会に出てくんだな、みたいなのをすごい感じて。そのときに出会った助産師さんとかお友だちとか、やっぱりすごい大事なんですよねぇ。場所に記憶が紐づくみたいなところがあるから、そこから離れるっていうのをあんまりしたくなかったのかもしれない。

 いい記憶もあれば、悪い記憶ももちろんある。でもそれも一緒くたにして、しみじみとおもしろい。たとえば、もう子どもがぜんぜん寝なくてフラッフラッの状態で、夜中に家の窓から見た世田谷の景色みたいな(笑)。うちマンションなんで、わりあい夜景きれいなんですけど。「ああ電気ついてるな」とか「あの家も電気ついてるな」とかそういうの。ゲームか? なんだ遊んでんのか? こっちは辛いんだぞ! みたいな気持ちになったりとか(笑)。そういうのは土地の記憶って大事だなと思うんですよね。

子育てしてきた10年間の記憶もそこにたっぷり詰まってるから。

 私がほかの土地に行ったことがないからなんでしょうけど、娘に「ママ、ちっちゃい頃これでなになにしたよ」とかいま言えるんですよ。たとえば、駒沢公園のファミリーで乗る自転車があって、親が必死で漕ぐタイプの4人乗りとかの。「これママ昔乗ったよ」とか。あと、子どもが自転車で遊べる広場とかも、「ママちっちゃい頃ここで練習した結果、こっちのサイクリングコース行けたよ」とか。そういうのが言える。駒沢公園で秋に、娘ちゃんが「イチョウが臭い」って言ってて。「昔、ママ、おじいちゃんとここでイチョウのぎんなん拾って家の庭に埋めて食べたよ」とか。そういう話ができるのも私がうれしいのかもしれない。

自分のたどった幼少期と、同じ幼少期を子どもも体験するっていう。

 そこから出たい人ももちろんいると思うし、ここにずっといることが尊いともあんまり思ってないんですけど。そういうのがあると、あえてここからどっか行こうかなとは思わずに来てしまった感じはする。

いざ子どもを産んでみたら「待てよ?」ってなって

さっきお話に出た、子どもを産んだ後のアイデンティティクライシスってどんな感じだったんですか?

 まず、体の自由が一切効かない。

お子さんがいるから?

 もっと直接的な話で、腰が痛くて一歩も動けん、とか。産後1週間ぐらいで家に帰されるんですよ。実家がこの辺だから「親が手伝ってくれたでしょ」ってよく言われるんですけど、うち親が高齢で、一切手伝ってもらえない状況だったので。普通に夫婦ふたりでいま住んでるマンションで犬と猫といて、新生児が来て。初めて触る子どもにわあ〜って最初過ごしたんですけど、物理的に体が動かない。腰が痛いとか、おっぱいが痛いとか。ぜんぜん寝られないし、「なんだこれは?」と思って。どこに行っても「なになにちゃんのママ」って呼ばれるし。いままで私がしてきたこととかそういうの一切なしで、「なになにちゃんのママ」として扱われる。それは別に悪いことじゃないし、新しく得たアイデンティティのひとつなんですけど、文脈とか話の流れが違いすぎて、戸惑うみたいな。あれ? あれあれ? みたいな感じ。それで全部一回崩壊というか、再構築の時間が必要。

一回ガラガラガラって崩れちゃうと、新たにいままでの自分と新しいママとしての自分、二本立てになるものなんですか?

 ああ…完全にそこにあったブロックを全部崩して、新しいピースをはめてもう一回、塔を組み上げたみたいな感じでしたね。私自身の実感はそんな感じでした。新しく全部つくり直したみたいなイメージかな? とはいえ、そんなにベースは変わらない。ピースが同じだから、組み上げた塔もきっとそんなにほかから見たら変わらないんだけど、私自身としては、すごく変わってしまったな…っていう感覚……だった。

 職場の人から見ると、きっとそんなに変わらないんですよ。なぜなら、職場用にはちゃんとこっち側っぽくしてるから。でも、反対側はちょっと違う感じ? 優しくなったねとは言われた(笑)。つき合いの長い先輩に。「いやぁ〜怒らなくなったね」って(笑)。若い頃はプリプリ切れ散らかしてたんですけど、まったく切れなくなった(笑)。この人こんなん言うてるけど…少年時代どうだったんだろう? とか一瞬思うことがあって。絶対イヤイヤ期、超ひどかっただろうなとか。一瞬思って引いてしまう瞬間があって。その方の生育歴とか知らないからわかんないけど、きっと誰かがめちゃくちゃ手かけて育てたんだろうなって思う瞬間がある。育ってきた背景とか経緯とかがあるんだろうなみたいな。

この人だってパパママなり、おじいちゃんおばあちゃんなりがいるっていう。

 私、我が子に対して親としてどうするのがいいかがすごいテーマになってるから、反面教師も「込み」かもしれない。自分の息子がこういうふうにならないためにはどうしたらいいのか、自分の娘がこういうふうなこじらせ方をしないためにはどうしたらいいのかみたいな、そういう目で見ているかもしれない。

 子ども育てるのがいちばん難しいと思う。なにをするより。私にとっては子どもを育てるっていうのがいちばん難しい。人生でいろんなことをやってきたけど。

 私、理系なんですよね。物事を一回頭に入れて、そこから組み立てていくみたいなのがすごい好きなんです。たとえば、犬を飼ったときには、私、犬の育て方知らないなと思って、ドッグトレーナーの資格を取ったんですよ。猫飼ったときも、私、猫のこと知らないなと思って、猫の本めっちゃ読んだんですよ。

まずインプットするわけですね?

 そうなんです。でも子どもを育てるってなったときに、子どもを育てるのは意外とみんなやってるし、いけるだろうと思ってたんですけど、いざ子どもを産んでみたら「待てよ?」ってなって。私、子ども育てたことないわと思って。しかも親が私になにをしたかっていう、「された側」の視点しか持ってないから、親が私にしたことしかアウトプットができないんですね。インプットはそれしかないから。親には感謝してますけど、親のいろんな行動とか挙動とかで「ええ?」って思っちゃう瞬間が、大人の私にはあって。「あれはなかったでしょ」って思っていることを、インプットがそれしかないから、ついアウトプットでやってしまいそうになる。そうすると自分がしたこと、してしまいそうになったことと自分の感情がすごいアンマッチになるんですよ。子ども育てんのほんと難しい! と思って。

 結局、じゃあどうしたかっていうと、やり方同じで。グローバルで研究され尽くしたような国連が一応推奨してるような「ペアレントトレーニング」があって。それを勉強して資格を取って。いま、本業の傍ら副業としてそれを提供したりとか。だから、子ども育てるのがいちばん難しい。正解がわからなすぎる。

その子の性格というか、千差万別ですしね。

どうやってんだろうって思う。自分自身のことも

 そうなんですよ。私がしたことをこの子も自分の子どもにするから、変なことをしちゃったら、私の孫に当たる世代、下手したらさらにその先に行くかもしれないとか。それがよぎると、子どもを育てるっていう行為が、欲しくて欲しくて子どもを授かったんだけど、もう怖くてしょうがなくなっちゃって。世の中のお母さんマジすごいなと思って。それほんとに怖くないんですか? みたいな気持ちになってる。

 親から受けた教育とか、親から与えられたものが、すごい体に馴染んでる人はいいと思うんですよ。違和感あると、ちょっとずれて辛くなっちゃうと思う。自分がされて嫌だったけど、子どもだからしょうがなくそれを許容するしかなかったみたいなことって、たぶんすごく辛いんだと思う。

自分の中で葛藤ができちゃいますよね。

 そうなんですよ。だから奥深い。奥深いっていうか、いやほんとにすごいと思う。

学習されて体得されたら、少しは…解消されたんですか?

 だいぶ解消されました。一回離れられるように。条件反射的にパッて出るものって、どうしても親から与えられたものになっちゃうんだけど、一回離れて、たぶんこういうふうにやるのが対子どもに対しては一旦正解なんだな、とか。ちょっと離れられるようになった。自分で分析できるようになったから、すごく良かったと思う。

 こと教育とか、こと子育てって、ディスるわけじゃないですけど、教育熱心なお母さんのなんちゃらメソッドとか、それほかの子に適用できんのかい! みたいな(笑)。ありがたいお言葉系のやつが結構あるから、そういうの私すごい嫌いで。私の学んだやつは、もともと医療機関、病院とか教育機関で、発達に凹凸のあるお子さんとか、あるいは障害のあるお子さんとかも含めて、医療機関とか教育機関で本当に研究として蓄積されたデータから、このぐらいの年齢の子どもにはこういう風な手順でこういう風にすると、割合と指示が通りやすいとか。主観が入ってなくて論文とかになってる、すごい客観的なデータ。人間の子どもとはこういうものであるみたいなやつなので。結果、グローバルで使われている「トリプルP」ていうプログラムなんですけど。 統計の話だから、標準偏差の真ん中に入ってる子たちもいれば、そこから外れる子たちもいる。我が子が真ん中に入らないケースももちろんあるから、わかりやすい。

 私、10歳ぐらいまでが勝負だと思ってて。10歳は言い過ぎだな。12歳ぐらいまでじゃないかなと思います。親がちゃんと関われるのが。そのあと18歳までかな。そのあとひとり暮らししちゃうかもしんないし。でもますます怖いですよね。自分の子ども時代ってよく思い出したり、自分の行動の指針にしたりすると思うんですけど、最初の12年の記憶とか与えられたものが、もしかしたらその子があと70年ぐらい持っていくかもしれない。もう…余計…怖いわ!って。「三つ子の魂百まで」とも言いますし。

 でも一方で、目の前に子どもがいて、瞬発的になにかをしないといけないときがあるから、しょうがなく瞬間的になにかを選択をせざるを得ないみたいなのがあるんですよね。みんなすごい。どうやってんだろうって思う。自分自身のことも、「私、どうやってるんだろう?」って思います。ほんとに(笑)。フルタイムで働いてるから、凄まじく忙しい。忙しい…いや、ちょっと表現が難しいんですけど、なんかね…う〜ん…やることが多い!

 あと、キャリアを諦めたくないみたいなのがあって…。これも言い方難しいんですけど、手放したくないって思って。いとも容易く手放せる状況にあるんですよ、いま。子どもふたりとも小さいし。もちろんお友だちとか同じ世代、同じ状況で、一回家庭を優先する。キャリアの手綱をちょっとゆるめて、ちょっと離している人たちはもちろんいるんですけど。それはその人の選択だからいいことだとは思う。しかし私はあんまり離したくなかった。…なんだろうな…なんか悔しくないですか? 私自身も悔しいと思ったけど、たとえば、同僚の若い20代ぐらいの女の子たちを見てて。この子たちも手放さなきゃいけない瞬間が来るのかなとか思ったら、いや、それはないでしょうと思っちゃって。

人間のいちばんいいタイミングは寝てるから、すこぶる体調はいい(笑)

 フルタイムでずっとやってはいるものの…人には勧められない(笑)。結局ね、20代の女の子とかにドン引きされるエピソードしか出てこなくなっちゃうんですよ(笑)。たとえば、私、下の子4ヶ月のときに復職してるんですけど、夫はそのとき、育休取って家で見ててくれて、私は在宅で自分の仕事部屋で仕事してて。でも子ども泣き止みません。なんとなく母がいることを息子気づいてるから、ギャーギャー言ってんだと思うんだけど「おっぱいをよこせ!」みたいな。しょうがないから上裸の状態で、子ども、エルゴ(抱っこひも)につけて、(おっ)ぱいを飲ませながら、カーディガン羽織って、カタカタカタカタ(キーボードを叩く音)っていう話とかも、若い子にすると、そんなふうにしないとフルタイムじゃ働けないんですかみたいな…逆に希望を奪うみたいな(笑)。私、普通に4時とか5時に一回仕事切り上げてて。

夕方の?

 そう。4時、5時に仕事切り上げて。そのあとお母さんタイムをして。9時ぐらいに子どもたちと寝落ちするんですよ。そのあと3時ぐらいに起き出して仕事して。明け方、子どもがふにゃふにゃいう5時とか4時半に布団に戻って、起きてくるの待って1日がスタートするみたいな生活をずっとしてるんです。

睡眠時間、何時間ですか?

 みなさんその反応なんですよ。でも睡眠時間は6時間は取れてるわけですよ。9時に寝てるから。しかもお肌のゴールデンタイムはバッチリ。人間のいちばんいいタイミングは寝てるから、すこぶる体調はいい(笑)。在宅だから昼に30分ぐらいスーッって寝られる。そんなに違和感はないんですけど。やっぱり漁師みたいな生活じゃないですか。フルタイムで働こうと思ったら、そういう生活しなきゃダメなんですかみたいな。いろいろ裏目に出てる感じがする(笑)。

 

 でも、周りの同僚に、私はこういうふうに働きますっていう理解を求める土壌をつくってるから、もしかすると下の子は働きやすくなるかもしれないっていう希望を持ちました。でも家事する時間とか一切ないです。無理。もう引き算してかないと無理。ほんとに不思議なんですけど、やっぱりまだ男の人はちょっとなんかすると、「うわ、パパ手伝ってくれてすごいね」って言われる傾向にあるのが、マジで気に入らない。おっぱいあげる以外は全部男の人だってできるでしょって思っているから。結果、夫はめっちゃやるようになりました(笑)。ちゃんと。

 会社とかにも「まだ、奥さんやってくんないの?」とか言い放ってる60代ぐらいのおじさんいますからね。でも実際問題、奥さんが働かなくても一馬力で、一定水準以上の生活ができた世代でもあったんだと思う。いまニ馬力じゃないと辛いっすよね。物価も高いし。めちゃくちゃお金かかるんですよね、子ども。

 お金の使い方として、子どもに出すお金って最も効果的というか。費用対効果みたいな話の軸ではないかもしれないがしかし、やっぱりすごく有意義なお金じゃないですか。習い事ひとつとっても、この子に使う習い事の1万円と、私が使う1万円だったら、絶対子どもに使う1万円の方がなにかを生み出す気がするんですよね。私が飲み会でパカスカ日本酒を飲んで1万円すぐ飛んでく(笑)。あの1万円と、子どもに1ヶ月ピアノを習わせる1万円だったら、そりゃ子どものほうがって。子どもに使うお金がやっぱり使いやすいから、結果としてすごいお金かかってるなって思う。そこはご家庭の教育方針があると思うんですけど、我が家の場合はそんなに子どもに制限するっていう発想はないから。

非常に悪くない。すごく楽になってきた

 でも、それが、なぜママがこんなに頑張って働くかにもつながるといいなってちょっと思ったりもする。女の子を育ててるから思うのかもしれないんですけど、女の子って難しいなって思ってて。私は駒沢のこの辺で育ってるから、たぶん、土地柄もあって、女の子に教育は必要ないとか、女の子は結婚するまでの腰掛けで働けばいいとか、そういうのがまったくインプットされないで生きてきたんですけど。地方の出身の友だちの話とか聞くとまだそういうのがある。私の世代だとまだあったんですよ。

短大行ったり、高卒だったり。

 でもそれは父親っていうよりも、母親が女の子にはあんまり教育は必要ないとか、短大でいいんじゃないとか、四大のすごい頭いいとこ行ったら結婚できなくなっちゃうかもしれないわよとか。私、自分の娘に母親として絶対したくないなって思っていて。女の子だからなにかを諦めるとか「女の子だから」みたいなのをあまり言いたくないがゆえに、バカみたいに働いてるし。私自身もなにも諦めない、なにも諦める必要はないんだよっていうのを言いたいがゆえにめっちゃ働いてたり、習い事もしたいって言われたものをさせたりしている感がある。難しいっすよねぇ。アンコンシャスバイアスみたいなのが絶対あるから。私も気をつけないといけないし。なるべく変なインプットをしないで育ってほしい!

そういうふうに意識されてお子さんと接してる反面、バリバリ仕事してるご自身も同時に共存してる。子ども生まれる前のご自身が100だとしたら、その100に、お子を見る100が加わって200になってる、そんなことないです?

 確かに、レベルアップしてる感じですよね。みなさんそうなんだろうな。

 最近、「おばちゃん」というスタンスを手に入れつつあって。「いや、おばちゃんさ〜」みたいな感じで、子どももそうだし若い子にも接せれるようになったら、すごい楽になってきて、いろんなことが。

 「老婆心なんだけどね」って言いながらアドバイスがしやすくなった。レベルアップした感がすごい。おばちゃん最強だなって最近めっちゃ思ってて。なんか「おばちゃんはね」っていうていでいくと、いろんなことが丸く収まる感じがする(笑)。

おばちゃんからのアプローチだと角が立たない?

 自分の呼称を悩むときがあって。2、3年ぐらい前までは、お姉さんじゃないし、でもおばちゃんっていうのも抵抗があって。もういまはおばちゃんって言える。最近「おばさんじゃないですよ」みたいなやり取りも発生しなくなってきたから(笑)。よかった〜と。非常に悪くない。すごく楽になってきた。ぜんぜん知らない子どもがなんか悪いことしてるときに注意しやすいかも。そういうシーンがたまにあって。

おばちゃんだから言える。社会におばちゃんって必要。

 間違いなく必要ですよ。でもそれは知恵と経験と年齢を重ねないとたどり着けないから。だってそれに込められてるのは、ともすれば包容力とかも内包されるわけじゃないですか。

ちょっとおせっかいとか。

 そうそう。

生活史を聞いて:ミニインタビュー                薮下佳代さん

必死でついていった感じ。で、話していて、スッと終わる瞬間ってあるじゃないですか。

 圧倒された。本当にすごいなって。世のお母さんたちには常にリスペクトしかないけど、同い歳ぐらいの方で、リアリティを持って話してくださったのが、すごい面白くて…「面白い」と言うと語弊があるかもしれないけど。

どう言えばいいんでしょうね。

 ねえ。「あの小説が面白かった」というのとは訳が違う。「興味深かった」とも違うし。本当にのめり込んで、心が動いて。「聞かせて、聞かせて」みたいな感じだったから。

じゃあやっぱり「面白い」でいいのか。

 動かされた。でも「感動」とかでもないんだよな。難しいですね。

 すごくお話上手な方でもあったから、私から訊いて引き出すとか一切不要で。彼女について一緒に山を登っていく感じで、ずっと気持ちよく相づちを打っていた。圧倒的でした。

山登りというよりトレラン? 一緒に走る二人のあとを、読んで駆け抜けた読後感があった。

 確かに。必死でついていった感じ。

 で、話していて、スッと終わる瞬間ってあるじゃないですか。それがちょうど2時間くらいだった気がする。

「話し終わる」ってなんなんでしょうね。すべてを語りきれるわけはないから、どこかで終わるのだけど。

 そうだなあ。思い返すと、昔の話に遡って、だんだん「いま」に来たときにスッと終わる感じがした。

 息子さんと娘さんがいて、これからの教育とか、いい子に育って欲しい…みたいな話をして、まさにいまこれからの話になったとき、そこでスッと終わった感じがあった。

走っている自分に追いついたところ、いまに戻ったところで終わる。いわゆるインタビュー記事だと、最後に「次はどんなことを?」とか、将来展望を訊いて締めてゆく形があるじゃない?

 ありますあります。

でもこの「駒沢の生活史」の中で、未来のこと訊いて終わっているのないな。ゼロだと思う。

 生活史では、教訓も示唆も展望も必要ないというか。その人が生きているありのままが大事で、それを描いているから必要ないのかな。未来に向けてこれからどう変わっていくか?って、わからないことだから、それに言及する人がいないのかも。

わからないことを、わかったふうに扱う必要がないというか。

 私も今回別の日に、話し手として話して、すごく不思議な体験だった。

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