「ラーメンをあまねく世界へ」を掲げ、商品開発や海外展開に取り組む南野商店。代表の南野マキさんが“ラーメン偏愛家”として歩み始めた背景には、いくつかの「人」との出会い、そして「乾麺」との出会いがありました。
後編では、精進料理の思想を取り入れた「禅麺」誕生の裏側や、ラーメンを世界へ広げる可能性を持つ乾麺の魅力について伺います。

ラーメンが仕事になるかもしれない
南野さんが、ラーメン偏愛家として独立されたきっかけを教えてください。
【南野】転職後はラーメンと関係ない仕事をしてたんですけど、つらい日には「おいしいラーメン屋さんに行こう!」と、メンタルを養うためにラーメンは食べ続けていました。ヤマダイで培ってきたラーメンへのアンテナが、日常生活に溶け込んでいたんです。
当時は東京にいたんですけど、全国のラーメンを食べ歩いているうちに、周りから「やっぱりラーメンを仕事にするべきだと思う」と言われるようになって。だけど、「ラーメンの仕事って何をするんだろう?」という感じでした。SNSもすごく苦手だし、そもそも自分の好きなものを人に伝えるのが苦手だったんです。
そうなんですか? 意外です!
【南野】本当は、こっそり好きなものを食べて、自分の好きな人たちにおいしいものを伝えられたらそれでいいというタイプなんです。公に発信することで、好きなお店が有名になって、行きづらくなったらどうしようと思ったり。自分にどれだけ影響力あると思ってるんだって感じなんですけど(笑)。
そこからどんなふうに、南野商店を作ったりといった今のお仕事に繋がっていったんですか?
【南野】最初は本当に手探りでした。何をすればいいのか分からないので、ラーメンのイベントをやってみようかと動いてみたり、少しずつ「ラーメンがすごく好き」ということを公表するようにしました。そんなとき、とある交流会で「禅麺」の依頼主になる山梨県の曹洞宗種月山耕雲院の副住職と出会ったんです。インバウンド向けの禅ツアーで精進料理を提供するので、目玉としてラーメンを作りたいという相談を受けました。そこで初めて、ラーメンが仕事になるかもしれないと思ったんです。

「なんとかなる」で突き進んだ「禅麺」開発
「禅麺」の商品開発はどんなふうに進められていったんでしょうか?
【南野】お寺でも提供できて、お土産として販売できるものにしたいというご要望だったので、まずは精進料理について調べることから始めました。精進料理を食べたこともなければ、ほとんど知識もなかったんです。ラーメンは欲望のまま食べるものだったので、無欲にあたる精進料理は、自分にとって一番縁遠い存在だったかもしれません。
ただ、依頼してくれた副住職自身もラーメンが大好きで、寺院で食を担う役職である典座(てんぞ)も務められたことのある方だったので、たくさん相談しながら進めていくことができました。実は『典座-tenzo-』というドキュメンタリー映画の主人公もされてた方なんですよ。
それは心強い味方ですね。でも、初めての商品開発となると苦労も多かったんじゃないでしょうか。
【南野】そうですね。ヤマダイ時代は営業だったので、現場の声を聞いて商品企画を提案することは何度かあったんですけど、実際に形にするのは開発の仕事でした。なので、スープメーカーさんを探すところから始めました。
麺については、メディア出演をきっかけに知り合った、私を乾麺の世界へ導いてくれた「稲庭中華そば」の製麺所さんにお願いすることができました。ただ、スープメーカーさんは大手企業だと製造ロットが大きかったり、継続的な生産が必要だったりするので、条件に合うメーカーを探すのに苦労しました。当時は「ラーメン偏愛家」という肩書きを名乗っていたので、怪しかったのか、電話をかけても門前払いされることもありました。
ひとつひとつ電話をかけて交渉していったんですね。
【南野】電話をかけたり、展示会で直接お会いして話を聞いてもらっていました。会う人会う人にスープメーカーを探していることを伝えていたら、禅麺のスープを作ってくださるメーカーさんを紹介していただけたんです。ただ、精進料理の基準で作っているので材料を調整する作業がとても大変でしたね。
そこにも壁が。
【南野】精進料理は、ヴィーガンのように動物由来の成分を使わないだけではなく、にんにくやねぎなど、香りや刺激の強い「五葷(ごくん)」も使いません。そのルールに合わせてスープを作る必要があったので、何度も試行錯誤を重ねました。最終的には理想通りのスープができたので、今のスープメーカーさんにお願いができて、本当に良かったです。
初めての挑戦で、挫けそうになることはありませんでしたか?
【南野】「なんとかなる」と思ってやっていました。切羽詰まると焦ることもあるんですけど(笑)。とにかく動き続ければ道は開けると思って進んでいました。

理想の食感、乾麺との出会い
禅麺には乾麺が使われていますが、南野さんは乾麺を世界に広めたいという思いを持っているそうですね。そんな乾麺の魅力を教えてください。
【南野】乾麺に魅了されたきっかけは、禅麺にも使っている「稲庭中華そば」との出会いでした。それまで乾麺の存在を知らず、生麺のラーメンばかり食べていたんです。ある日、近所のラーメン屋さんですごくおいしい麺と出会って。それが稲庭中華そばだったんですけど、調べてみると乾麺だと知って驚きました。
ラーメンというと醤油や豚骨といったスープの話になりがちですが、私はずっと麺こそが要だと思っていて。その頃、ラーメンをたくさん食べ始めて10年くらい経ってたんですけど、どれだけスープがおいしくても、麺がおいしくなければ成立しないし、一杯の中のバランスが大事だと感じていました。
それから麺をずっと追いかけていたんですけど、自家製麺に興味を持つようになって。店主が粉の配合を決めてつくる自家製麺は、なんといっても麺の啜り心地がたまらないんです。それと乾麺の食感が近いことに気づいて、乾麺に大きな可能性を感じました。
どんな可能性でしょうか?
【南野】私はお店のラーメン以外にも、インスタント麺や市販のラーメンを横断的に食べていました。その中で、お土産として売られてるラーメンは、どうしてあんまり好みではないんだろう感じることが多かったんです。でも乾麺に出会った時に、家でもおいしいラーメンを作れる可能性が出てきたんですね。
お土産のラーメンは半生麺が多くて、賞味期限は90日ほどですが、乾麺なら1年くらい保つし、常温で管理できます。扱いやすいので、世界にも輸出していけるんじゃないかと思い始めました。そうすると世界中のラーメンのおいしさの基準が、きっと変わるだろうなと思ったんです。
乾麺は、南野さんが求める理想の麺に近いんですか?

【南野】そうですね、かなり近いと思っています。乾麺って、手延べや機械のような作り方の違いの他に、小麦の選び方や組み合わせ、生地の中の構造、乾燥の仕方で表情が大きく変わるんです。その設計次第ですごく繊細な風味や食感が出るのですが、それが麺にこだわる店主が作る自家製麺の食感に近いように感じています。
日本の文化をのせて、ラーメンを世界へ届ける
もうひとつの商品「斎麺」も、プラントベースで作られたものですよね。商品開発では、どんな視点を大切にしているんでしょうか?
【南野】禅麺を作った時に、ヴィーガンの方から「久しぶりにラーメンを食べられて嬉しい」と言ってもらえたことが、すごく嬉しかったんです。精進料理を基準にしたことで、いろんな食の制限を持つ人たちが、同じものをおいしく分かち合えるのがすごくいいなと思いました。
斎麺は三重県の明和町斎宮との共同開発の商品なんですが、平安時代に天皇の娘である斎王が、天皇に代わって伊勢神宮に参拝するために、その土地に住まわれていたんです。神事に関わる際には、動物性食品を控えて体を清める習わしがあったので、斎麺はそういった背景も踏まえてプラントベースにしました。
今後は商品開発と同時に、海外への展開も進めていくのでしょうか?

【南野】海外へ輸出する場合、動物性エキスが使えないことが多くて、鰹節もNGなんです。その点、プラントベースであれば輸出しやすいので、今後もその基準で商品を作っていきたいですね。
ラーメンは日本の食文化のひとつを築いてますが、ラーメンに日本の文化が落とし込まれていないと思っています。なので、日本の文化を込めたラーメンを作って、それを世界に広めていきたいですね。将来的には逆輸入の形で日本に戻ってくることを目指したいです。世界に乾麺のおいしさを知ってもらって、世界中に乾麺が広がればいいですね。
最後に、ラーメンベスト3を教えてください!
【南野】なかなかベスト3まで絞るのが難しいものの、ひとつは、有名どころになりますが、日本で最もおいしいとも称され、最も予約が困難とされる神奈川県湯河原町の「飯田商店」です。つくられているすべての所作の美しさに魅了されますし、ラーメンへのどこまでもまっすぐな姿勢を学ばせていただいております。もうひとつは、東京都神保町の「キッチンきらく」。実は「稲庭中華そば」において、産みの母が佐藤養悦本舗の佐藤さんだとすれば、父は店主の阪田さんにあたるかと感じています。阪田さん自らが店に立ち、常に新しい食材や季節を感じる食材を取り入れながら、稲庭中華そばを使用したラーメンを常時15種類ほどご用意されています。最後は定番ですが、福島県白河市の「とら食堂」です。伝説的なお店なんですけど、水のように美しいラーメンで、スープも麺もスッと細胞に染み渡る感覚があります。具材もすべてあるべき姿で乗っていて。渾然一体となったラーメンが本当に大好きなんです。

【斎麺の作り方】
・パッケージには麺、スープの素、中華めん風の素「YUDE-CO」が2食分ずつ入っています。
- 水の状態でYUDE-COを入れて、沸騰したら麺を入れます。
・斎麺の麺は、実はひやむぎです。アルカリ性の食品添加物である炭酸ナトリウム(かんすい)が原料のYUDE-COを入れることで、中華めん風に変身。2分半ほどで麺の色が白から黄色に変化していきます。
・パッケージには茹で時間が7分と書かれていますが、麺を水で締めることを前提としている分数なので、南野さんおすすめの茹で時間はあたたかいものだと5分だそう。麺の硬さのお好みによって調整してください。
・茹でている間は麺肌を傷つけないために、なるべく麺に触れないように。麺が沸騰したお湯のなかで丸く対流している状態が良く、吹きこぼれもないそうです。- 茹で時間が残り2分を切ったところで、器にスープの素を入れて350mlのお湯を注ぎます。
- 麺が茹で上がったらしっかり水きりをして、器に麺を盛りつけます。*ざるにあげた後、振らずにそのまま少し斜めにしてじっと水がきれるのを待つと、麺肌が傷つきません。麺は、少し高いところから器に入れると綺麗に盛りつけることができます。
text / Lee senmi photo / Wakana baba
『今日の駒沢』編集部
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