何気なく目にしている広告や、お店のロゴ、施設のサイン。その一つひとつは、誰かの思いをかたちにしたものです。駒沢パーククォーターのサインデザインを手がけたMOTOMOTOの松本健一さんと坂本尚美さんも、そうした「人の思い」をすくい上げて、世の中に届ける仕事をしています。
実はご夫婦でもあるお二人。前編では人と人の間をつなぐデザインの仕事について伺いながら、普段どんなことを考えているのか、二人の頭のなかを覗いていきます。
依頼してくれた人の思いを形にする仕事
そもそもそのデザイナーとは、どういう職業なのか教えてください。
【松本】デザイナーにもいろいろあるんですが、僕らはいわゆるグラフィックデザイナーといわれるものです。平面上でビジュアルと言葉を一緒に扱う仕事は、基本的に全部グラフィックデザインとして括れちゃうので、かなり幅の広い仕事ではあるんですけど、僕らは広告や紙物のデザイン、それこそ駒沢パーククォーターのような施設にまつわるサインデザインだったりをしています。

デザインをする時は、どんなことを意識していますか?
【松本】まずは依頼者の話をしっかりと聞きます。その上で、見た目がかわいいや、かっこいいなど、目に止まるようなビジュアルを考えますけど、大元はやっぱり形にしたいけれどできない人の思いや考えがベースですね。
【坂本】依頼者の思いをいい形で人に伝えるために、話を聞いたり資料を読み込んだりして、デザインとして定着させていますね。
【松本】駒沢パーククォーターのサインデザインだと、依頼者がいて、施設を訪れるお客さんがいて、そのあいだを繋ぐ役割でした。それがグラフィックの仕事だと思います。
依頼主の意図とお客さまにとっていいことにズレが出てきた時に、葛藤することもありそうですね。
【松本】そういう場合に、デザイナー側から提案をすることはあります。駒沢パーククォーターの仕事では、関わる人みんながざっくばらんに言い合える関係性だったので、進めやすかったです。
【坂本】おかげでこちらからもご提案ができるし、それをある程度受け入れてもらえました。
【松本】上下関係がはっきりしてる場合だと、決まったものしかつくれなくなりますけど、今回は対等に仕事を進められたのがよかったんです。

やっぱり、対等な関係の方がアイディアも出しやすいんでしょうか?
【松本】そうですね。気軽に話をできる関係性は大切ですね。
【坂本】こちらのモチベーションも上がりますしね。二人とも広告がメインのデザイン会社に10年ほど勤めていたんですけど、クライアントと消費者の間の葛藤が結構あったので、大変でした(笑)。

普段の業務では、どういう流れでデザインを進めてるんでしょうか?
【松本】先ほども話したように、まずは依頼者の話を聞いてから、そのなかからアイディアを見つけていきます。それから「このアイディアであれば、もっと広げられるかもしれない」という点を話し合いながら、デザインの方向性を固めていってます。
一番苦労する過程はどこですか?
【坂本】つくってる途中段階が一番大変かもしれません。アイディア出しをして、いざ形にしようとすると、思うようにうまくいかなかったりして。
【松本】例えば施設のサインデザインだと、ロゴデザインはプレゼンで決まっても、それを全体のサイン計画として展開していく時に、整合性を取ることが大変ですね。うまく噛み合ってないと違和感が残り続けるので、「これでいける」と確信できる形が見えてくるまでは、なかなかしんどいですね。

スーツを着たくないからデザイナーに
お二人がデザイナーになろうと思ったのは、いつからですか?
【松本】僕はまず、スーツを着たくなかった(笑)。
【坂本】そんな明確な気持ちがあったんだ(笑)。
高校生の時にそう思ったんですか?
【松本】はい。いろいろ調べたり、友達と話したりしていくと、どうやら美大というものがあるらしいと分かりました。じゃあ美大を目指そうと、高校2年生から予備校に通うんですけど、そこでコースを選ぶんですよ。
油絵や彫刻とかいろいろあったなかで、選ぶんだったらデザインかなと。それから大学にもデザイン学科があると知って、美大を受けました。
【坂本】私も似たような感じかな。進路先がまだ決まっていなかった高校2年生の頃に、美大というものがあることを知って。面白そうだなと思って、まずは美術部に入ったら、顧問の先生に「予備校に通った方がいい」と言われて、予備校に通いはじめたんです。ただ、親からは「美大に行くんだったら、デザイン科か建築科にしなさい」と言われました。
就職のことを考えて、ですね。
【坂本】勝手なイメージですよね。いまなら油絵を専攻してもちゃんと就職先はあると分かるんですけど、当時は親も私も理解していなかったんです。グラフィックデザインを専攻したんですけど、特に広告系の授業が楽しかったので、就職活動で広告系の会社をいくつか受けてデザイナーになりました。
【松本】僕も美大のデザイン学科を目指すことになるんですけど、卒業後にどんな仕事ができるのか、具体的に想像はできてなかったですね。大学に入った2000年ぐらいは、街中の広告がめちゃくちゃかっこいい時代で。
例えば音楽業界もCDの売り上げもピークの頃だったので、毎週カッコいいCDジャケットのデザインが登場していました。日常的にイケてるデザインを街中で見ているうちに、漠然とグラフィックデザインの仕事に興味が出てきました。
【坂本】その時代の広告も本当にカッコよかったよね。
【松本】デザインでブランティングをするデザイナーさんが活躍する時代で。その影響もあって、グラフィックデザインのなかでも、広告が一番の花形という意識がありましたね。

普段、街でも観察してるものや意識してるものはありますか?
【坂本】そうですね。お店に来ても内装が気になったり、マグカップの色使いがいいなと思ったり、常にアンテナが立っているのかも。あと、子どもが二人いるんですけど、子どもに関わる商品から発見があったりします。
【松本】ショップカードでも、どういう書体を使ってるのか気になりますしね。自然に、そういうふうに見る癖がついてます。スーパーに行っても、パッケージを見たり。
はみ出す部分が人間らしさの現れ
最近は生成AIの性能も上がってきて、AIによるイラストやデザインも社会に出てきています。そんな時代に、デザイナーの役割はどう変化していくと思いますか?
【坂本】現状だと、依頼者の思いからアイディアをすくい上げることが、私たちデザイナーにできることだと思います。でも、そのうちみんながAIを使いこなせるようになったら、状況は変わってくるかもしれません。
【松本】ただ、そうすると想像の範囲内のものしかできないんじゃないかな。デザイナーの役割は、想像の枠から外れることにあると思うんです。はみ出したところに面白さがあるし、そういった発想を形にすることが、人間にできることかもしれない。
「はみ出し」のところが、人間らしさにつながるんでしょうか?
【松本】そうですね。むしろAIは、人が少し気になるような「変なところ」をつくれない気がします。
【坂本】その人の持ってる感性や、これまで培われてきた経験から生まれるものがあると思いますね。それに、ちゃんと人と会って話すことで、生まれるものも大きい気がします。AIも出できたばかりなので、使う側が振り回されちゃってる部分もあるので、これからどうなっていくのかは興味がありますね。
【松本】AIも役割によって、適材適所で使っていければいいですね。

松本さんは大学の教員もされていますが、学生にはどんなことを教えているんでしょうか?
【松本】基本的に、自分が仕事でやっていることを教えています。まずはアイディアを出して、とにかくたくさんラフを描くこと。それからパソコンの画面上で完結させないことを徹底しています。パッケージデザインであれば、画面の中だとサイズ感も立体として立ち上がった時も想像できないので、すぐにプリントアウトして形にします。実際にどう見えるかを、自分の目で判断することが大切だと教えていますね。
例えば、名刺のデザインとB1サイズのポスターのデザインも、画面の中だと同じサイズに見えてしまいます。だけど実際には、サイズに大きな差があって。文字サイズの感覚の違いを、身体的に理解しておかないと、あとあと苦労することが多いと思います。
【坂本】パソコン上で何かつくるにしても判断がしづらくなるので、そういう身体的な感覚は学生のうちから慣れておいた方がいいですよね。会社に入ると、すぐにプリントできない環境かもしれないので。

*後編では駒沢パーククォーターのロゴやサインデザインについて、聞いていきます。
text / Lee senmi photo / Ikue takizawa
『今日の駒沢』編集部
駒沢エリアの情報を発信するウェブマガジンの編集部です。駒沢大学駅に隣接した商業ビルの運営・施設管理・テナントへの賃貸業務を26年、株式会社イマックスが、駒沢エリアに住む人、働く人、活動する人…とたくさんの市民の方々と一緒に運営しています。「駒沢こもれびプロジェクト」を通じて、駒沢エリアに関わるすべての方々に役立つ情報を発信しています。
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