私、人よりすごい睡眠時間が長いんです(笑)
- 話し手
- 聞き手
- 西村佳哲
フリーランスになって丸4年経ったけど、会社員の頃はやっぱ週5で働くじゃないですか。朝から夜まで、8時間くらい。で、私、人よりすごい睡眠時間が長いんです(笑)。
笑っちゃうぐらい。
帰ってご飯食べて、食べ終わった瞬間にもう起きてられなくなって、朝まで寝ちゃう。仕事以外はもうほぼ寝てる、みたいな。だからプライベートを充実させている実感がなくて。
で、フリーランスになって、仕事はまあ週3か4で、1日5時間くらいやって。あとは趣味に使ったり、人に会ったりという感じで、いまは本当に……楽しい!って、日々過ごせるようになったな。
激変ですね。
激変した気がしますね。ぜんぜん違います……そもそも働いてる時間がめちゃくちゃ減ったし、そのぶん……遊んでます(笑)。
いまは自分でハンドルを握っている。
はい。働くときは働く、遊ぶときは遊ぶで、メリハリつけて。でも、ちょっと気を抜くと仕事を入れすぎて。「やばい。余裕がなくなってる」と思うとちょっと仕事を抑えて。
仕事の量のバランスが少しずつわかってきた。「そんな無理して働かなくてもいいよね」と自分に甘く。「きついな」と思ったら趣味に逃げて(笑)。で、また「そろそろ働かなきゃ」と思って、頑張って働いて。
自分で調整してる。
してます。
でも仕事が来ると、入れすぎちゃう感じがある。
そうなんですよね。断るのがどうしても苦手で。
取材の3日前くらいから緊張して……ダメなんですけど
そんなにやりたい仕事じゃなくてもとりあえず受けちゃう。
自分が「やりたい」テーマにフォーカスした方がいいよねと……思うけど……依頼が来ると受けちゃう。興味がなくても「なにか得られるものがあるだろう」と……いまはまだ、自分に合うもの・合わないものを探すフェーズなのかなという想いもあり。
やった後「受けなきゃよかった」と思うときもあって。でもこれをくり返して見つかっていくんだろうな。
いろいろ手探りですね。まだ4年。
4年前にフリーランスに切り替えたのは、バランスを取りたくて?
それが大きくて。あとちょうどコロナで、会社が週休3日制になって。平日も時短になったり、お給料も減って。
そのぶん自由な時間が増えたときに、「なんかやってみよう」「自分で出来ること探したいな」って、最初副業でライターを始めて。たぶん、もともと書くのがそんなに嫌いじゃなかった。「いいな」と思って。数ヶ月やったあと、会社を辞めて独立した。
これでやってみようと。
思いました。(勤めていた頃は)大学とかIT企業とか数社で事務系の仕事をしていて。文章には関係なかったけど、喋るより文章で伝える方が、自分の気持ちを伝えられるなと日々思っていて。書くのが嫌いじゃなかった。ただそれだけの理由で(笑)。
話すのが苦手。自分の考えとか、言われたことに意見がすぐ出てこなくって。テンポよく対応できないコンプレックスが、ちょっとあって。
その点文章だと、きれいに頭の中を整理して「違うな」と思ったら消せるし、伝えられる。
で、つづいているってことは、手応えを感じている。
そう……「やっぱ向いてないよ」と毎日のように思って(笑)。でも辞めないってことは。人に話を聞くのが苦手ではあるんですけど。でもやっぱ、得られるものが大きい。というか楽しい。
自分が知らなかった世界を教えてもらえるのが。取材の3日前くらいから緊張して……ダメなんですけど。「もう今回でもうやめよ」と思うくらい緊張して。毎回毎回緊張して。4年経っても。
でも終わった後に「楽しかった」と思う。話を聞かせてもらって。だからつづいてます。意外と。
大きなものが返って来るんだ。
そうなんですよね、たぶん。
話を聞き終わった後、インタビューをした人から、「聞いてもらってこう思った」「本当にありがとうございます」みたいなメールをもらったり。公開後にSNSとかもチェックして。ぜんぜん知らない人の感想とか見ると、やめられない(笑)。
味をしめてる感じか(笑)。
そうですね(笑)。
なんにも動いてなかったし、どちらかというと自分の世界に閉じこもっていた
そういう仕事ができてるの、すごいねえ。
毎回じゃないですけど、そうですね。嬉しいことですね。
でも、それで生活がいっぱいになっちゃうのはどうか…、という感じなのか。
(仕事を)入れすぎると本当に余裕がなくなっちゃうから、ある程度の件数に抑えないと、というのはあって。
家族に優しくできなくなったりするのは、わかってきましたね。ここ1〜2年くらいで。仕事は楽しいけど、それでプライベートを楽しめなくなったら本末転倒だなという想いが強い。
さっきのお話で「ご飯食べて寝る」という、つまり趣味や好きなことに投じる時間のあまりない勤め人時代を想像しました。でも「バランスを取ろう」と、時間ができて。出来た時間になにして遊ぶ? という、その部分はどう開発されていったのかな。
好きなことは意外とあって。会社員時代は、好きなことはあるけど、それをやる体力と気力がない状態だった。
ものづくりが好きなので教室に通うとか。「こういうのも面白いよ」と聞いて、そっちも試してみるとか。「取材で聞いた面白そうな資格があるから取りに行ってみよう」とか。人に会う回数が増えた分、自分のチャレンジもどんどん増えている感じです。いい感じに変わってきてる。
緊張しながらも、ワクワクしている。「わあっ」という気持ちがある。
はい。
そういうご自分は結構長いんですか? 会社辞める前の時代、あるいは小さな頃から割とそういう感じなのかな?
いや、こうなる前まではなんにも動いてなかったし、どちらかというと自分の世界に閉じこもっていた。
なにもチャレンジもしない。ただ与えられることをこなすような……かなり陰。陰と陽の、陰な生活を送ってました。ずっと。
ずっと。
はい。というのも、家庭環境があまり良くなくて。母に、アルコール依存と精神疾患があって。
私が大人になってから、その精神的・経済的な依存がけっこう大きかった。その母を支えなきゃいけない、みたいなのが強くて。なおかつ昔からあまり裕福な家庭じゃなかったので、奨学金をマックス借りて大学は出たけど、その返済と母への仕送りとかで生活もカツカツで。
だから趣味とか、自分の好きなことにお金を使おう、という気にもならなかったし余裕もなかった。実際。空いた時間は家でテレビ見るか、寝て過ごしていた。
話せることがなかったんですよね。家でずっと寝ているだけだから。
でも28歳くらいのとき、母と絶縁したんです。「そろそろ自分の人生を歩きたい」と思って。「このまま歳をとっていくのが怖い」と思った。
で、絶縁して。まだ会社員だったけど、そっからいろいろ。「自分のお金も時間も、自分のために使ってみよう」「自分の好きなことをなにか考えてみよう」みたいな感じで。
自分の人生。
はい。ありきたりな言葉ですけど、自分の人生を歩き始めたという経緯があります。
それまで目一杯だったんだな。でも、このままじゃ怖いなと。
思いました。60歳になったときを想像して。
20代の頃とか、友人たちと集まっても、私だけ浮いているように感じて。
みんなが仕事とか趣味とか旅行とかに精を出している、人生を楽しんでいる姿を見て、「自分はなんて空っぽなんだ」というか、話せることがなかったんですよね。家でずっと寝ているだけだから。
だから……そういうのもあって、人と会うのも嫌になっていたし。
そうなんですよね。先のこと考えたら「自分は空っぽのままになっちゃう…」と思って……怖くなった、のかな。
「空っぽのまま」という言葉は、傍で聞いていても怖い感じがします。
だから「自分が動かなきゃな」…と思ったんですよね。まずは絶縁して。そのときは悩んだし、罪悪感もあったけど、いま後悔はしてなくて。
やっぱり私の自立は、社会人になったときでも、一人暮らしを始めたときでもなくて、母と縁を切ったときに始まったと思っている。昔に比べたら人生でいまがいちばん楽しいと思えるから、あの決断はしてよかったなとは思います。
いまの楽しさというか、バランスの取れた状態の喜ばしい感じが、ちょっとただ事じゃないというか。本当にそうなんだなって。
うんうんうん。
しかもまだ始まって数年。真っ最中だね。
そうですね。ほんとに真っ最中で。いまがいちばん楽しいし、楽しまなきゃって……思ってます(笑)。「動きたい」という想いでいっぱいです。
さっき、いろんなことに好奇心があるけど、ちょっと緊張してじっとしているというか。その場所から動かずに世界を見てる、みたいな印象を言ったけど、その印象もまた変わってきました。
ほんとですか。
見てこれなかったものをいま必死に集めている。経験しに行っている
しかもその中で「バランスをとろう」と、自分を大事にされている。自分をすごく助けていて、すごいな。その中で、書いていくことが頼もしい力になっている。
そうですね。……書くこと。人に会うことが……仕事というよりライフワークのように……うん。自分を支えてると言ったら大げさかもしれないけど、自分の人生のため。
お金を稼ぐためというより、見てこれなかったものをいま必死に集めている。経験しに行っているイメージです。
仕事がいろんなところへ運んでくれているんだ。
あっ、ほんとにそうだと思います。
単に書くというより、「インタビューして書く」のがいまとても使えているんだ。
そうなんですよ。本当にその通りで。そうなんです……「書く」と「人に会う」。「人に話を聞く」のをセットでやりたいと思っていて、ずっと……やってます。苦手だけど(笑)。
(笑)得意分野ではない。
ないんです(笑)。
3日前から緊張する(笑)。
そうなんです。お金もらっていることだから、しっかりやらなきゃいけないけど。やっぱ「このインタビューばっちりだったぜ」と、「120パーできた」「得意」とか、そういう感覚はずっと持てなくて。「こんな取材じゃ…」って。
やっぱ書くには取材がしっかりしていないとダメだから、「取材もっとできるようになんないと」「こんなんじゃ」と思うんですけど、毎回「向いてないでしょ」って(笑)。
その言葉2回目(笑)。
(笑)思うんですけど、そういうネガティブな自分に対して「いや回数重ねたら出来るようになっていくよ」という自分もいて。
せめぎ合っているけど、ずっとやめられずにいますね。
自分の中で話し合いがある。
あるんです(笑)。
いずれにしても、精神は活発な状態。
そうですね。ずっと……常に自分が心地よくいられる状態を探してるし、昔の脳死した自分とは。…もう、考える事をやめていたというか。そういう自分とは違うなって、その違いがはっきりある。ありますね。
新品なんだ。
新品ですね(笑)。ほんとに「自分はもう生まれ直した」と思って。「自分はまだ4歳だ」と思ってやってます。
そういうふうに見えます。
あ、見えますか(笑)。
4歳はあれだけど、しがらんでいないというか。自分と。
いままで散々しがらんできたんで。なんかもう「そんな時間はもったいないぞ」という状態で。
ここってファミレスかなんかでした?
過酷だったんですよ。28歳で絶縁するまで「もう生きていけないな」と思ったことが、「もうダメだ」と思ったことは何回もあったけど。「なんとかなるんだ」「そう人は簡単に死なないんだ」ということがわかって。
どんなことがあってもなんとかなるんだ、という経験をしたんですよね。だからいまもそこだけは役立っていて、どんなに「やばい」と思っても「いや、でもどうにかなるから」と思える。メンタルの強さだけはあるのかもしれない。
だからあまり深刻には悩まない、という基礎が身についているのは強みかもしれない。
さっき脳死状態とおっしゃったけど、そういうときも、自分との会話はあったんだ。
きっと。
でもいま、その頃以上に、自分と話し合いながら生きている。
……「この人はこう言ってたけど、じゃあ自分だったらどうする?」と考えるとか。人に会うところから、相乗効果で自分についてもいろいろ考えるようになったな。
人に会わないときって、やっぱり広がらなかったんですよね、自分の中で。しかも悪い方向にしかいかないし。
話が自分に合う・合わないはあると思うけど、人に会う分だけ広がっていく、というのはいますごく思う。広げてかなきゃなって。
いいですね。
ふふふ(笑)。
(笑)笑っちゃう感じがある。絶縁の切り替えは、住む場所を変えたということ。
はい、ずっと東京にいたけど住む場所も変えて。そんな遠くはないけど埼玉の方へいって。当然、住所もなにもバレないように。心機一転……結婚したというのもあるし。夫も、夫の家族もいい人たちで。ほんと心機一転。第2の。早いけど、第2の人生をいま歩いている感じがする。
その辛い時期を、ここ(駒沢)に住んでたんですよ、ずっと。
じゃあ(親御さんが)いらっしゃる。
いまは別のところにいるんですけど。ここに住んでいて。夜逃げも2回くらいしてる(笑)、なんか想い出深い場所で……そうなんです。駒沢の街はすごい好きだったし、まあ……家族関係以外は、友だちと楽しく過ごした想い出とかもちゃんとあるから、悪い想い出ばかりではないけど。悪い想い出もある(笑)。
ここってファミレスかなんかでした?
いや知らない。ユニクロの上。
そうですよね。ジョナサンかなんかだった気がして。違うかな。親に締め出されて、中学生か高校生のときこのファミレスで一晩過ごしたことがあるなと思った。「ここかも」という想い出の場所です(笑)。
でも、いま想い出してもぜんぜん辛くならなくて。「やばかったなあ」ぐらい。「よく頑張ったなあ」という感じ。もうほとんど笑い話で、という。
別の世界にいるんだ。
そうなんだと思います。よかったと思う。
生活史を聞いて:あとがき 西村佳哲
みんな一所懸命
この話(私、人よりすごい睡眠時間が長いんです)を聞かせてくれた女性は「駒沢の生活史」の参加メンバーです。
プロジェクトには約40名が参加し、「生活史の聞き方」という講座の後、各自の作業に入っていったのですが、話し手の立場を体験して感触を掴みたいという聞き手が数名いて、30〜40分ほどの短時間ですが、私が生活史を聞かせてもらう時間を持った。そのうちの1本です。
彼女は最初のキックオフミーティングのときから唐突に初々しいというか、「この世界に最近来たんですよ!」とでもいうような印象があり、この日お話を聞いて「本当にそうだったんだな」と思った次第です。
他人のことは「聞いてみないとわからない」とよく思います。その人の中に、どんな体験や、想いや、期待があるのかは想像が及ばない。たいていその想像を越えるし。
でも関心を向けつづけると、聞かせてもらえることがある。
そして最後に思うのは、「みんな一所懸命生きているんだな」という一言に尽きます。
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