駒沢こもれびプロジェクトでお馴染みの駒澤大学・李妍焱(リ・ヤンヤン)教授が、同じく大学教授である土井先生とともに、ご夫婦のこれからのビジョンを実現すべく、弦巻にカフェをオープン。取材では、お二人の息の合った掛け合いをはじめ、大学の講義とは一味違う視点や気づき、そして未来へ向けた夢について熱い想いを伺うことができました。
今回は、新人こもれび記者の來山(きやま)が、こだわりのメニューや居心地の良い空間の魅力を余すところなく取材してきました!

大学教授ご夫婦の新たな夢
味覚の変化、人を待つ大変さ、そして「場を作る」奥深さを実感
いっぷく楼オープン、おめでとうございます!まずこの1ヶ月の率直な感想をお聞かせください。
【李先生】 たくさん感じることがあります。1つ目は「手作りのものってすごいな」ということです。 この数ヶ月は、試作を含め、その日に残ったケーキも自分たちで食べるじゃないですか。だから2〜3ヶ月間手作りのものしか食べてない状態で、久しぶりに市販のスイーツを食べたら添加物の味を感じたんです。今まで50年あまり生きてきて、添加物に味があるって知らなかったんですけど。3ヶ月ぐらいたつと感覚が変わったことを感じ、とても不思議だなと思っています。
2つ目の率直な感想は、「人を待つのって大変なことだな」ということです。 お客様が来てくれないと何も始まらない。環境を全部整えて、「来てくれるかな」って期待しつつ、あまり人が来なかった時に、結構悲しいっていうか……(笑)。 これまでの日常において当たり前のように、お店に行っておいしいものを提供してもらったり、歩く道が掃除されて綺麗だったりすることは、常に誰かがその環境を整えてくれてるからこそなのだということを感じ、ありがたさを実感するようになりました。それまでは自分が利用する側だった中で、「提供する側」になってみてわかる心遣いがあるんだなと。当たり前だと思っていたことは、すごくありがたいことなんだなと。
そしてもう一つ。「場を作るのは大変」だということです。 まさに私は「人が社会に関わっていく」ということを大学での研究テーマにしていますが、いまままでは、市民というものは、「フラットで対等に、様々な人が自分の考え方を表現したり、やりたいことを実現したりできるもの」だと思っていました。 しかし実際は、同じ場に関わっていて対等だと思っていてもプロの人やそうではない人、それぞれの立場で全然違うということを実感することが多々ありました。
場は作るものじゃなくて出来上がるものだと思うのですが、そうなると、その場にいる人の温度差とか声の大きさの違いが出てくるじゃないですか。多様な人たちが、様々なものを持ち寄って、その持ち寄るものが違うからこそ豊かになるっていう考え方が「コモンズ」です。しかし同時に、持ち寄るものが違うからこそ、ズレが生じたり、結果的に居づらいと感じてしまったりして、その人にとっての「場」ではなくなっちゃうっていう側面もあるのだなと感じています。居場所って決してフラットではなく、「多様」というものは言葉だけでは簡単に表現できるものではないんだ、と思いました。

20年以上のレパートリーから「最高の一皿」。「なんだか美味しいよね」って思ってもらえるケーキづくり
GWには「悶絶するガトー・オ・ショコラ」も新登場したとか。スイーツとドリンクのこだわりがありましたら教えてください。


【李先生】 カフェを開く前から、20年以上、ずっと夫にケーキを作ってもらってきたんです。私のため、ゼミ生のため、娘の友人のため……。さまざまなレパートリーの中で、「これは最高だ!みんなに食べて欲しい!」と私が思ったものをさらに夫が研究を深めて提供しています。実は彼はメニューにない種類のケーキもたくさん作れるんですよ。
【土井先生(マスター)】 カフェメニューとするには調整が必要で、例えばレアチーズケーキは、おしゃべりしているうちに溶けてしまうのを避けるため、少しだけ固めにしています。暑い日はレモンを少し多めにしてさっぱりさせるなど、その日によって変えています。材料も一つひとつこだわっていますし、コーヒーも自分で夜な夜な焙煎しています。
【李先生】 そういう所に配慮して作っているのは、本当にすごいと思います!
【マスター】 僕が目指しているのは、赤ちゃんからお年寄りまで誰が食べても、「あぁなんだか美味しいよね」って思ってもらえるケーキ。パリで修業したパティシエの高級なケーキも素敵ですが、ここで提供するのはそうではなく、誰の心にもじんわり届くようなケーキです。

野草茶というのも珍しいメニューだと思いますが、どのようなきっかけで?
【李先生】カフェを作る中で知り合った方の中に、野草茶で起業をしている世田谷在住の女性がいました。野草茶の中には、効能が優先されてあまり美味しくないものもあるのですが、飲んでみたらとても美味しかったのです。いっぷく楼のオリジナルのお茶を作ろう!ということで、材料をブレンドして、野草茶「ふくふく」を作りました。
多様な世代が行き交う「地域の交差点」1ヶ月で101人が来店!
──どうしてこの弦巻の地を選んだのですか?
【李先生】 最初カフェを開くとなった時に、諏訪とか熱海とか、駒沢大学駅付近など、幅広い地域で考えていたんです。温泉が湧くところがいいけど虫が多いのが嫌だな、とか(笑)。そんな時に、この場所と出会って、一言でいうと「地域の交差点だな」と思ったんです。松ヶ丘小学校や中央図書館、その近くには保育園や幼稚園。向かい側にデイホームもあって、目の前の道は六差路になっているんですよ。
すぐ近くに世田谷区立大山道児童遊園、通称「いっぷく公園」がありますが、そこには大山詣の途中でいっぷくする江戸時代のおじさんの銅像があります。ここに来た時に本当に「地域の交差する場所にいる感じ」がしたのです。住宅地でありながら、世代も多様な人たちが、それぞれ違うところに行き交っていくわけですね。だからここがいいんじゃないかなって思ったのです。
──今日も様々なお客様が訪れていますが、年齢や目的、どんな人がこのカフェに来られていますか?
【李先生】 最初の1ヶ月間、統計を取ったところ、ちょうど101人、61組のお客様が来てくださいました。
そのうち24組が知り合いです。ゼミの卒業生や、何十年も会っていない大学の同級生も、たまたま日本に来ていたタイミングで来てくれたり。あとは主に近所の方で、すごく気に入ってくれて、ひと月に3、4回来てくださった方もいます。年齢層で言うと、0歳から93歳まで本当に幅広いです!オープンした日に93歳のおばあちゃんが来てくださって、次の日には0歳の赤ちゃん連れのお母さんが来てくださって。
嬉しかったのは、最初にお母さんたちと来てくれた中学生の女の子が、次は1人だけで「宿題やらせてください」って来てくれたんです。地階の小上がりの席でずっと宿題をやって「家より全然集中できるー!」って(笑)。迎えに来られたお母さんもなかなか帰らずにずっとお茶を飲んでお話して(笑)。それがすごく嬉しかった。最近はGoogleマップを見て来ましたっていう方もちょっとずつ増えていて、来られる方の層には、幅広いグラデーションがありますね。

コンセプトは「おうちの延長」。温かみのあるブルーと遊び心ある小物たち

どんな空間を目指してデザインされたのでしょうか。こだわりがありましたら教えてください!
【李先生】お店なんだけどお店っぽくない感じ。「おうちの延長」というコンセプトです。日常の中にあるちょっとした非日常。色のテーマとしては「青」を掲げていて、マリンブルーとはまた異なる、温かみのあるブルーで統一しています。
装飾の小物にもこだわっていて、テーブルの置物からメニュー立てまで、1個ずつ選びました。席ごとに違う小物を置いているので、前回は気づかなかったものに、2度目の来店でふと出会える…そんな“新しい発見”も楽しんでいただける空間になっています。


いっぷく楼のふくろうのキャラクターも、とてもかわいいですね。どうやって生まれたんですか?
【李先生】近くにある公園が通称「いっぷく公園」であること、お店の構造的に、入ってから2階へ上がっていく感じが「楼」のイメージに近かったので、お店の名前は「いっぷく楼」にしようとなりました。そして、お店のイメージキャラクターをふくろうにしたいと思った際に、ネットでとあるイラストレーターさんのこのイラストを見つけて、ライセンスを購入しました。「ぷくちゃん」と名付けましたが、好奇心旺盛そうな表情がすごくいいなと思っています。
名前の知らない同士が、家族や人生の深い話を語り合える場所
お客さん同士、お客さんとオーナー様との交流など、新しいつながりは生まれていますか?
【李先生】けっこうありますね!大学の授業で喋るのには慣れているはずなのに、カフェにいる日は授業より長く喋ってしまって喉が痛くなる日もあります(笑)
お店で出しているルワンダコーヒーの話をきっかけに、外国の話になったり、(ヤンヤン先生ご出身の)中国の話になったり。とにかく話が盛り上がって気がついたら2時間たっていたということもありました。中国ドラマのイケメン俳優の話で盛り上がることもありました(笑)
カフェを実際運営してみて、大変なこと、新たな発見だったことはありますか?
【李先生】市民ってみんなフラットなものだとずっと思ってたんですけど、「市民だからこそ凸凹なんだな」ということを実感したことです。
その凸凹を上手い具合に補い合うような形で、全員一緒にいられる場所というのが一番だと思うんですけれども、実際それはなかなか大変で難しいです。「場」は単にデザインでできるものではなくて、偶発的なものがあって、その場にいる人たちが、それぞれその「場」をどう受け止めるかによって変わるものだと思います。ただ単に凸凹がいい・多様がいいって言うだけでは、絶対に語り尽くせない、深いものなんですよね。改めて、人同士って、ただ一緒にいられるだけで大変ありがたいんだ、当たり前ではないんだって思っています。
「カフェって、お互いの名前も知らないのに、家族の話とか人生の話とか、すごい深い話ができるんです」。そういう時に、「一緒にいる」ことを実感したりします。
地域の方に愛される、地域があってこその「いっぷく楼」
今後、いっぷく楼をどのような場所にしていきたいですか?
【李先生】お店って、来る人で決まるとは思っていて。これからどんなお店になっていくのかは、私たち自身もまだはっきりとは分からない部分が多いのですが……。
【マスター】 お家とカフェの中間っていうのがコンセプトなので、来てくださった皆さんにとっての家の延長っていうのかな。それこそ、中学生がここで宿題をやるとか、お散歩のついでに喋っていくとか。
ここ、駅から遠いじゃないですか。路面店でもないし。ここではカフェはやれるかなと不安はありましたが、いざ始めてみて、いろんな方がここを出入りしているうちに、地域で暮らすのって、こんな感じなのかなって、とてもいいなって思うようになりました。自分の家ではしづらいことをしたい時、「そういえばあそこにお店があったな」とふと思い出してもらって、気軽に使ってもらえる場所であればいいなと思います。
近くにはいっぷく公園があって子どもたちが一日中遊んでいますけど、夏場なんかずっと外にいると暑すぎるじゃないですか。だから何も頼まなくていいから入ってきてもらって、ここで涼んでまた遊びに行って……。うちはKidsはドリンク100円なので、1人は100円でジュースを飲んで、他の子は付き添いということでも全然いいですし。そういうお店を目指してます。
人間の本質は「孤独」⋯。だからこその夢
──最後に今後の夢を教えてください!
【李先生】 意識がある最後の最後まで、お互いに対して何かしらのリアクションを得られる、そういう暮らしをしたいなと思います。
人間の本質であり最大の課題は「孤独」だと思っています。私は異国から来ていて、長年ここで暮らしていても、根本的なところにはやはり深い孤独があると思っているんです。人生っていかに孤独を癒すか、孤独に対策するかだと思っています。
孤独から逃れるためには、初級レベルから上級レベルの対策を順にあげれば、「見てもらえる」「聞いてもらえる」「気にかけてもらえる」「認めてもらえる」、さらには「敬意を持って大切に扱ってもらえる」ことが必要だと思うんです。孤独から少し解放される瞬間っていうのは、心のなかの「ひだ」のような、柔らかいところに何かが入ってきた瞬間だと思います。芸術に触れたりして共感する時、人間の孤独って癒されますが、それって一瞬だけですよね。やっぱり人と繋がって、見てもらって聞いてもらって、自分の存在に対して何かしらのリアクションをもらうということが、孤独と向き合うためには一番重要だと思います。
だからこのカフェも、誰かに「見てもらえる・聞いてもらえる・認めてもらえる」っていう場所でありたい。私にとってだけじゃなく、名前も知らない誰かにとっても、何かちょっとでも「心のひだ」にスっと入ってくるものや言葉があるような……そういう場所になっていたらいいなと、思っているのです。
店舗情報
「Caféいっぷく楼」
営業日時:土曜・日曜・月曜 11:00〜17:00
場所:世田谷区弦巻5-14-8インスタはこちら
來山千紘
散歩やカフェ巡り、旅行が好きで、休日は街をゆっくり歩きながらお気に入りの場所を見つけるのを楽しんでいます。
穏やかで心地よい空気が流れる駒沢の街に魅力を感じ、その魅力を自分の言葉で伝えられたらいいなと思っています。
<取材を終えて>
カフェの取材という枠を超えて、多くの気づきと刺激をいただける、非常に充実した時間となりました。李先生が語る「カフェという場所の面白さ、不思議さ」というお話には深く頷かされ、改めて場の持つ力を感じました。 また、李先生と土井先生のお二人の軽快なやり取りも心地よく、終始和やかな空気の中で取材を進めることができました。ケーキもお茶も非常に美味しく、またゆっくり伺いたいと思える素敵なお店でした!
『今日の駒沢』編集部
駒沢エリアの情報を発信するウェブマガジンの編集部です。駒沢大学駅に隣接した商業ビルの運営・施設管理・テナントへの賃貸業務を26年、株式会社イマックスが、駒沢エリアに住む人、働く人、活動する人…とたくさんの市民の方々と一緒に運営しています。「駒沢こもれびプロジェクト」を通じて、駒沢エリアに関わるすべての方々に役立つ情報を発信しています。
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