気づいたらラーメンがそばにあった。食通の家族のもとで育った“ラーメン偏愛家”のはじまりとは。南野マキさん<前編>

インタビュー

「ラーメンをあまねく世界へ」を掲げ、ラーメンの商品開発や海外展開に取り組む南野商店。代表の南野マキさんは、“ラーメン偏愛家”として、店の一杯からインスタント麺までジャンルを問わず全国各地を食べ歩いてきました。そして今、駒沢周辺に事務所を構えるひとりでもあります。

前編では食に強いこだわりを持つ家族のもとで育った子ども時代のお話や、就職活動で毎日3食インスタントラーメンを食べ続けたお話など、南野さんのラーメンへの偏愛が、どのように形づくられていったのかを紐解いていきます。後編では好きが高じてつくった「禅麺」についてです。

「おいしいもの食べて死にたい」祖父のDNAを受け継いで

ラーメン偏愛家として活動をスタートした南野さんですが、どんなふうにラーメンの魅力に取り憑かれていったのでしょうか?

【南野】ラーメンを好きになったきっかけを聞かれるたびに考えるんですけど、実はこれといったきっかけがなくて。いつの間にかラーメンがそばにあったんです(笑)。もともと父親がラーメン大好きで、「ラーメン屋さんに行こうよ」と誘われたと思ったら、実家がある三重県から奈良県のラーメン屋まで行くというタイプ。

県を跨いで!

【南野】車に乗って、いつまで経っても着かないなと思っていたら、バナナを渡されて(笑)。バナナを食べてるうちにラーメン屋さんに到着するんですけど、2時間くらいかけて行くことが普通だったんです。

お父様のラーメンへの執念がすごいですね。

【南野】それが当たり前の環境だったので、ラーメンはそういうふうに食べるものだという意識が、自然と根付いていったのかもしれません。

振り返ると、周りもラーメンに対する距離感がおかしい人ばかりで(笑)。新卒で入社した食品メーカーでも、開発の方にいろんなラーメン屋さんを教えてもらっていました。当時は茨城にいたんですけど、100km離れたお店まで食べに行くこともよくありましたね。

子どもの頃から、食べることは好きだったんですか?

【南野】大好きでしたね。うちの一家全員、食に対するこだわりが強くて、祖父は特に「おいしいものを食べて死にたい」というくらいの食通だったんです。三重に住んでいたので、食卓に出てくるお肉は基本的に松阪牛でした。

なんて贅沢な!

【南野】肉じゃがのお肉も松阪牛で、いつも祖母が買いに行ってました。でも祖父が亡くなった途端に「お金がかかりすぎるから辞めよう」と、撤廃になるんですけど(笑)。

そんな祖父も亡くなる前は、肝臓を悪くして透析が必要な状態だったので、塩分の少ないメニューを作ってあげたんです。最初は孫が料理を作ってくれたとすごく喜んでたんですけど、5日間同じメニューが続くと、「もういい。俺は好きなものを食べるんや!」と、ものすごく怒っちゃって。最期はおいしいものを食べて死にたいって聞かなくて、よろよろの祖父を連れてウナギ屋さんに連れていったりして。

そのDNAは確実に南野さんに受け継がれていそうですね。

【南野】父も似たタイプで、ラーメンに限らずおいしい食材を求めていろんな場所に行くタイプでした。みかんを買うために南伊勢町に1時間半かけて行ったり、おいしいものに対する嗅覚もすごくて、「ここのスーパーは絶対に干物がおいしい」と入ってみたら、まさにという感じで。

毎日3食インスタントラーメン生活!?

食への執念というと、南野さんも就職活動中に食品メーカーを志望して毎日3食インスタントラーメンを食べていたそうですね。

【南野】それは、自分に自信がなかったからなんです。これだけは誰にも負けないと、秀でてるものが私にはありませんでした。就職活動をしていた頃は、氷河期に入りつつある時期だったので、ちゃんと自分に自信を持つためには、何かで人よりも努力するしかないと思ったんです。

そこでまず自己分析をすると、人と関わることが好きだと気づいたんです。人にとって大切なものといえば「衣食住」ですが、その中でも自分にとって一番大きかったのが「食」でした。住まいには少し興味がある程度で、服は正直、体を覆えれば十分だと思っていたんです。

機能性重視だったんですね。

【南野】そうですね。そんなふうに生きてきたからこそ、食だけはどうしてもおいしいものを食べて生きていきたいという思いが強かったんです。食は生活と切っても切り離せないものですし、なくなったら生きていけません。それで、食の中でも一番好きなものを考えたとき、思い浮かんだのは、実は春雨だったんです。

ラーメンじゃなくて!

【南野】思春期の頃にダイエットをしてたんですけど、「おいしいものを食べて痩せたい」という気持ちが強かったので、いろんな種類のインスタントの春雨スープを試していました。当時、食べていない春雨スープはひとつもなかったくらいです。

春雨スープもたくさん種類があるんですね。

【南野】有名なのはエースコックさんですが、フレーバーが新しく出る度に買っていました。だから春雨にはかなり詳しいです。特においしいと感じていたエースコックさんのことを調べてみたら、シェアの9割がカップラーメンで、春雨は1割しかなかったんです。その時、カップラーメンについて、私はほとんど知らないと気づきました。それまでは、どちらかというと避けていたんです。

それは健康的な理由でしょうか?

【南野】自炊していたこともあって、食べていなかったんです。ただ、実家では袋ラーメンをよく食べていたし、カップラーメンを知らないとエースコックさんに入れないと思って、まずはいろんなカップラーメンを買って食べてみることから始めました。

行動力がすごいですね。

【南野】近所のスーパーから買い漁り始めて。それからいろんな人に会うたびに「おいしいカップラーメンを教えてください」と聞いていたんです。そうして出会ったのが、新卒で入社するヤマダイという食品メーカーでした。

当時は名古屋の私立大学に通っていたんですけど、名古屋ではヤマダイの商品はあまり広まっていませんでした。たまたま知り合ったバイヤーさんから「すごくおいしいものがあるよ」と、商品化する前の「サンマーメン」をいただいたんです。食べてみたら本当においしくて驚きました。それ以来、何を食べても「これが一番だ」と思うようになって。麺のおいしさが段違いで、ヤマダイの就職試験を受けようと決めました。

就職活動では、3食カップラーメンのお話もされていたんですか?

【南野】それが、一度もしなかったんです。

なんと!

【南野】でも、面接ではその経験が生かされました。「あなたがカップラーメンを作るなら、どんなものを作りますか?」と聞かれて、名古屋にいたので「八丁味噌のラーメンを作りたい」と、即答したんです。ヤマダイのどの種類の麺を使用するかまで、具体的に話しました。

後から聞いた話だと、その答えが印象に残ったみたいです。あとはヤマダイがある茨城の僻地まで3回も通ったというガッツが認められてたらしいです(笑)。

ラーメン好きには天国だった「地獄の研修」

入社してからは、どんな経験をされたんですか?

【南野】まずは研修で3ヶ月間、製造現場に入りました。他の即席麺メーカーだと、工程を知ることが目的なので、研修は1週間くらいだそうです。だけど、ヤマダイは営業や開発といった配属に関係なく、実際の戦力として現場に入るんです。同期には事務の女性もいたんですけど、体力もかなり必要だったので、途中からとても辛そうでしたね。

体力も必要なんですね。

【南野】生地を作る「ミキシング」という工程から、最後にラップで包む「シュリンク」という工程まで、すべてのポジションを経験するんです。なかでも麺を作る工程が特に重労働で、コンテナを外したりはめたりする作業をひたすら繰り返すので、かなり体力が必要でした。私は意外と体力があったのと、2時間に1回あった麺の検品が楽しみでしたね。普段は食べられない、出来立てホヤホヤの麺を食べられるんです。

南野さんにとっては、願ってもない環境ですね。

【南野】現場の方たちは少しだけ食べて「おいしい、大丈夫」と確認する程度なんですけど、私は普通に一食分を食べてました。お昼も食べて、また検品で食べて(笑)。「よく食べるね」と言われるんですけど、おいしいから毎回しっかり食べてましたね。なので、地獄と言われていた研修が、私にとっては幸せなものだったんです。

***

ラーメン愛をすくすくと育んでいった南野さん。いつしか、ラーメンを仕事にすることを目指していきます。後編に続きます。

***

「南野商店の正直教えたくない口福展」開催

実は、自分の好きなものをあまり人に教えたくない。そんな南野マキさんが、これまで食べてきたおいしい“とっておき”を紹介する「南野商店の正直おしえたくない口福展」 が、3月20日から3日間、東京・神楽坂の AKOMEYA TOKYO in la kagūにて開催されます。

南野さんが日々の食探求のなかで出会い、「本当は教えたくない」と思うほど、作り手の想いが込められたおいしい食品を厳選。会場には南野商店の「禅麺」や「斎麺」はもちろんのこと、コーヒーや薬膳茶、ドライフルーツ、パンケーキミックスなど、全国から12の食品ブランドが並びます。会場では作り手が店頭に立ち、試食をしながら商品の背景や想いを直接聞くこともできます。

初日となる3月20日は春分の日。自然を讃え、生きものを慈しむ日でもあります。そんな日にふさわしい、ある共通のテーマを持つ食べものたちが会場に並ぶのだとか。食の“口福”に出会えるイベントで、南野さんこだわりの味を、ぜひ会場で楽しんでみてください。

日時:3月20日(金)〜3月22日(日)11:00〜18:00
会場:AKOMEYA TOKYO in la kagū 2F 
〒162-0805 東京都新宿区矢来町67番地
入場:無料

text / Lee senmi photo / Wakana baba

『今日の駒沢』編集部

駒沢エリアの情報を発信するウェブマガジンの編集部です。駒沢大学駅に隣接した商業ビルの運営・施設管理・テナントへの賃貸業務を26年、株式会社イマックスが、駒沢エリアに住む人、働く人、活動する人…とたくさんの市民の方々と一緒に運営しています。「駒沢こもれびプロジェクト」を通じて、駒沢エリアに関わるすべての方々に役立つ情報を発信しています。

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