「#flowership」
ロスフラワーを知ってもらい、駒沢の街で花を消費する文化を根付かせたい。駒沢のお花屋さん。

お花屋さん探訪
八百屋で野菜を買って帰るように、花屋でお花を買って帰ろう

撮影の日は仕入れの前日でしたが、それでも50種類ほどのロスフラワーがお出迎え。ロスフラワーといっても普通のお花と一緒、どれも新鮮で生き生きとしています。

塚田茉実(まつみ)さん

#flowership代表

幼少期をイギリス、学生時代を日本とアメリカで過ごす。大学卒業後、大手企業にて勤務後、2021年12月にロスフラワーを取り扱う生花店「#flowership」を駒沢にオープン。32歳、7歳と1歳の双子を育てながら精力的に仕事をこなしている。Instagram: @flowership_official

ビュッフェ感覚で花選びを楽しめる新スタイルの花屋さん

駒沢大学駅から駒沢公園へ向かう自由通りの途中に、ロスフラワーを扱う「#flowership」がオープンしたのは2021年の冬のこと。まだ、世の中はコロナ禍、マスクをして足早に歩く人が多い頃でした。

モダンでノスタルジックな花のイラストの看板に目を止め、異国情緒が漂う佇まいの建物を眺め、果たしてここはカフェなのか花屋なのか。勇気と期待を持ちながら店内をのぞいた人も多いはず。

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店名の「#flowership」は花を通して人との繋がりを広げていく、という意味。ハッシュタグをつけることで、より幅広く繋がれたら、という思いを込めています。

新しい空気が漂う店内に所狭しと並んでいたのは百花繚乱の花々。その様はアートのように美しく、お花屋さんというよりちょっとしたギャラリーのよう。ひとつだけ違うのは花という作品に自由に触れられること。

「私自身、お花を買うときは触って、選んで、組み合わせて、というプロセスを楽しみたかったのですが、売り物のお花を触らせてくれるお店は少なくて。それならば!と思い切って、ビュッフェ感覚でお花を選べるお店を自分で形にしました」と話す「#flowership」代表の塚田茉実(まつみ)さん。

花好きの塚田さんは自分が実現したかったことを、この店で数多く発信しています。それまで、あまりなじみのなかったロスフラワーへの取り組みもそのひとつでした。
ギャラリーのような落ち着きのある店内。棚の高さは「見やすい、花を手にとりやすい」を基準に最後まで大工さんと追求したそう。

ロスフラワーってなんですか?

ロスフラワーとは、生産された花が消費者の手に行き届かないまま廃棄されてしまう花のこと。市場の過大在庫や売れ残ってしまった花、農家で生産された規格外の花、数時間しか使われないイベントの花なども含まれます。生産された約3割もの花が廃棄されると言われています。

「私が花屋を始めた目的はもっとみんなに花を消費する習慣をつけて、こうしたロスフラワーを減らしたかったのがひとつの目的です。

世界的に見ても日本の切り花の消費量は年々減少の傾向にあります。これはコロナなどの影響もありましたが、このままでは自分が好きな花業界がどんどん衰退していってしまう、という危機感を抱きました」

「#flowership」の店頭に並ぶ花の約9割が市場の過大在庫のロスフラワーです。塚田さんは週に2回、花市場から色や種類は選べない条件のもと、買取を行なっています。季節によりますが花の種類は50〜100種類。どんな花でも、この空間に並ぶと「#flowership」らしい顔になるのが塚田さんマジック。

「日常的に楽しんでもらえるように、1本380円と買いやすい価格設定にしています。お客様は2週間ごとに家に飾る花を買ってくださる主婦の方や、仕事帰りにバケットを買うような気軽な感覚で1本、好きな花を買ってくださるOLさん、犬のお散歩がてら花を愛でにいらっしゃる方、毎週末、店頭のブーケを買ってくださる男性などさまざまです。こうして常連さんが増え、少しずつ駒沢に花を消費する習慣が浸透していっているのが何より励みになります」

ロスフラワーは1本380円。誰もが買いやすい価格で花を消費する習慣を狙っています。

花も日常品として「消費」する意識が大事

塚田さんは花を、あえて「消費する」という言葉を使います。そこには花がパンやコーヒーのように無くなったら必要だから買う、花はハレの日のものだけでなく、ケの日にも欠かせないものとして、日本人の暮らしの中でもっと身近なものになってほしいという願いも込められています。

「私は幼少期と高校時代を海外で過ごし、ライフスタイルに花のある暮らしの豊かさを目の当たりにし、文化の違いを痛感しました。

彼らは週末、市場やスーパーへ行って野菜や肉、パンを買って、最後に花を買って帰るのが子供の頃からのルーティン。記念日やイベント、デートで花を贈り合うのはごく自然なこと。

今でも忘れられないのがアメリカでのバレンタインデー。この日は男の子たちが好きな女の子に花を贈る日。学校中に花が溢れ返り、これは絶対日本では見られない光景だな、と。後から知ったのですが、海外ではバレンタインデーが最も花が売れる日なのだそうです」

帰国後、花は塚田さんにとって一層愛しい存在ととなり、ライフスタイルに欠かせないものとなりました。

「会社員だった頃は、忙しくて心が折れそうなときに自分にエールを贈る意味で花を買うことが多かったですね。入った花屋さんでシンパシーを感じた花を選んで、色や種類、本数も毎回バラバラ。でも、部屋に1輪でも自分の好きな花があると、心が癒され豊な気持ちになります。花は幸せなときだけのものではなく、自分をいたわりたいときにも優しい力をくれます」

オープンの2週間前に妊娠が発覚!しかも双子。やれるところまでやって無理だったら考えよう、と覚悟を決めたそう。ご縁あってサポートしてくれるスタッフに恵まれ、塚田さんがお店に立たなくても回っていくようになったと言います。

駒沢は皆が目的を持って集まる街、新しい習慣や文化も生まれやすい

「駒沢は都心から近いのに空が広くて、深呼吸するようにリラックスできる街。駒沢公園もあり、わんちゃんの散歩をはじめ、ウォーキングやランニングなどの運動、家族で遊びに行くなど、目的を持って通っている方が多いと思うんです。そういう方々に「じゃあ、今日は花を買って帰ろうか」という新しい習慣を持っていただき、ロスフワワーのことを知ってもらえたらうれしいですね。

駒沢はカフェ文化発祥の地ですし、ニューオープンのお店も多いから街が常に活性化しています。その点でも新しい文化も育ちやすいと思っています」

最近は、駒沢公園周辺でこのラッピングを持つ人をよく見かけます、という嬉しい声も。これは駒沢の人たちに花を消費する習慣が浸透しつつある証拠。看板や名刺のモダンなイラストと包装紙は、ご主人のお姉さんのデザイン。一度見たら記憶に残るのもポイント。

花を通じて世代を超えた繋がりも大切に

取材の終盤に塚田さんが思い出すように話してくれたのが、中学生のお子さんを持つ女性のお話でした。

「その女性はお子さんに花を買うなら「#flowership」で買ってほしい、と言われて来てくださいました。今の子供たちは消費者が物を買うことによって、誰に利益がもたらされ、社会的にどう役に立っていくのか、というサスティナブルな教育を受けているんですね。

今後、お花の消費拡大を考えたとき、彼らのように価値観が柔軟な10代やZ世代をベンチマークとしてアプローチしていくのが大切だと思っています。極端な話、お花が好きでなくても、ロスフラワーには興味を持ってくれるかもしれない。そんな逆転の発想が、花業界を救う未来につながるといいなと思っています」

塚田さんが好きなミルクガラスをせっかくなら日本の伝統文化を継承していきたいという思いから、伝統工芸に指定されている江戸硝子で制作。ひとつひとつが職人による手作り。「#flowership」オリジナル。花とセットで贈る人が多いそう。左・¥4378、右・¥5478
「#flowership」は、こもれびスタジオから徒歩1分。駒沢大学駅からも3分と地の利も最高!

photographer Ikue Takizawa
text Keiko Takahashi

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