
駒沢の花屋を背負う#flowershipの新たな挑戦
駒沢大学駅から駒沢公園へ向かう自由通りの途中にある花屋「#flowership」。生産された花が消費者に届かないまま廃棄される「ロスフラワー」を扱う花屋です。色とりどりの花が店内を飾り、ひとつひとつ手にとりながらビュッフェ感覚で選べることも魅力のひとつ。
そんな「#flowership」が、2025年秋に駒沢駅前にオープンする商業施設に移転という形で店舗を出店します。「駒沢の花屋」としての新たな挑戦と覚悟を、代表の塚田茉実さんに伺いました。前後編にわたってお届けします。

「駒沢の商業施設に花屋が入るなら、#flowershipしかない」塚田さんのパッション
2021年に駒沢にオープンした#flowership。以前、このwebマガジンでも取材させていただきましたが、今回、商業施設に出店することになったのですね!
【塚田】 そうなんです。今は、楽しみな気持ちしかありません。駅前に商業施設ができると知ったのは、2年前のこと。すぐ近くなので「素敵な場所になるといいな」と思うのと同時に、「きっと花屋は入るだろうな」というイメージがしぜんと浮かびました。それなら「#flowershipしかないでしょう!」という思いでプロジェクトが始動したころに、お話を伺う機会をいただけないかと、私たちの方からご連絡させていただきました。
お店を構えてから2年後のことですよね。言ってみればまだ2年。
【塚田】 今の場所に#flowershipをオープンする時に、周りに競合となる花屋が少ないかということは、しっかりとリサーチしました。すでに地元に根付いている花屋がある土地にあえて店を出すよりも、まだ花屋が少ないところに、自分たちがゼロからつくっていく方がビジネスとしては、“羽が生えやすい”と思っていました。その点で駒沢は、駅から駒沢公園までの間に意外とお花屋さんが少なかったんです。だからもし、新しい商業施設に花屋が入ったとしたら、店舗を始めた当時の大前提が崩れてしまって、これは死活問題にもなります(笑)。であれば、リスクを負ってでも自分たちがその商業施設に入るように動いた方が、お店は守り抜けるし、今のお客さんたちとも一緒に、何か新しいことができるのではないかとチャレンジする気持ちでした。
経営者として、そしてお客様のことも考えてという判断だったのですね。
【塚田】 もう少し別の視点から言えば、新しい商業施設にはカフェやパン屋も入るだろうから、駒沢に根付いた地元の店舗の人たちも、同じような危機感を持ったはずです。駒沢でお店を経営する人たちとのつながりができてきた今、私みたいな姿勢の人がひとりいたら、皆さんも安心するだろうという気持ちもあって。やっぱり、地域のお店って、競争相手というよりは一緒につくっていったり、育っていったり、つながっていったり、そういう関係性の中にいると思うんですよね。ただ、私のモットーは地に足のついた健全な経営なので、新しい展開に向けて無理をしすぎることはできません。今、自分たちができる精一杯で現実的な計画書を持って出店へのトライをして、それで選ばれないのであれば、仕方がないなと考えていました。

そして#flowershipさんが選ばれた。その理由はどこにあったとお考えですか?
【塚田】 本当に、神のみぞ知るところというか(笑)。もちろん、#flowershipが駒沢発祥のローカルに根付いたお店ということは強みです。駒沢というまちを、地元の人たちと一緒に耕していくというこもれびプロジェクトの理念と通じるところがあったんだと思います。まずは、そこがいちばんです。
一方でビジネス的な視点でいうと、すでに駒沢には#flowershipを利用してくださるお客様がたくさんいるので、近くに移転するとなれば、しぜんに商業施設のお客様にもなります。私たちのお店のファンが、商業施設のファンにもなってくれると、そこは自信を持ってアピールさせていただきました。
駒沢に対しての強い思いですね。
【塚田】 私自身が駒沢に住んでいるのもあって、駒沢の土地に対する愛着があるんですよね。親族がほとんど駒沢で暮らしていますし、いわゆる「ザ・地元民」といいますか。
叔父の家系が、代々駒沢の土地を受け継いでいます。私の家は父が転勤族で、家族で長く海外で暮らしていたのもあって、あんまり日本の土地に地元という感覚を持っていなかったんです。ですが、いざ自分が結婚をして子育てをし始めて、どこに地盤を置くかを考えた時に、駒沢公園に惹かれて。海外の生活が長かったので、パークサイドがすごく落ち着くんです。引っ越してみると、叔父の家とすごく近所になりました(笑)。

よりワクワクするお花の楽しみ方を提案
#flowershipは、生産されて消費者の手に行き届かないまま廃棄される花「ロスフラワー」を扱っていますが、移転してもお店のコンセプトはそのままに?
【塚田】 はい。日本は生産された花のおよそ3割が、誰の手にも渡らずに捨てられてしまっているという現状です。市場で売れ残った花やちょっとだけ形が違うという理由で弾かれた花、イベントで数時間使われただけの花など、“ロスフラワー”を減らしたいと思っています。私は「花を消費する習慣」というふうに言っているのですが、野菜を食べて健康になるように、花を飾って心が健康になっていく。もっと気軽に花を楽しむ文化を広げていきたいというのが、私が花屋をはじめようと思ったきっかけでもあるので。
大きく言えば、日本では切り花の消費量が年々減っていて、このままだと花の業界そのものが衰退してしまうかもしれないという危機感もあるんです。
お花を手にとって選べるお店というのも、めずらしいですよね。
【塚田】 いわゆるビュッフェ形式です。 花に直接さわれる花屋さんって意外と少なくて、自分の手で花を選ぶ体験を通して、もっと花が身近に感じられたらうれしいです。

お値段も1本380円ですが、そこも変わらずでしょうか?
【塚田】 一度も値上げしたことがないんですけど、物価高の影響もあるので検討中です。ただ私は300円台にすごくこだわっています。やっぱりお客様目線で考えた時に、手に取りやすい価格という感覚を忘れてはいけないので、慎重に進めていますね。今後はギフトにも注力しようと考えています。
お花のギフトですか。
【塚田】 ロシアに豪華なお花専用のギフトボックスを贈り合う文化があるのですが、#flowershipでもボックスを開発中です。人に花を贈る時のワクワクを、花束よりもさらに越えていきたくて。ギフトボックスに紐となるリボンをつけて、そのまま持ち運べて渡せる形を考えているんですが、それを持って駒沢公園を散歩したら、めちゃくちゃ可愛いと思うんです。そういう世界を実現できたらいいですね。
ギフトはもらう人も嬉しいですけど、あげる人も嬉しい気持ちになりますよね。
【塚田】 花を贈るまでの間は、買った人がギフトを持っていますよね。どうせなら、その時間もワクワクしてほしいので、買った人も、もらった人も嬉しくなるギフトを作りたいですね。ギフトを持ってる間は、ティアラをつけてるような感覚になってほしいんですよね。

「花を好き」という気持ちがいちばん大切
以前にお話をお伺いしたときは、海外ではバレンタインに男性が女性にお花を贈る習慣があるとおっしゃってましたが、日本でお花を取り巻く環境は変わりましたか?
【塚田】 バレンタインを含め、お花を贈る男性も増えてると感じます。相手が甘いものを好きじゃなかったり、一緒に楽しめるようにと。最近は私の父親世代の方も、奥さんや娘さんに花を買って帰られる方が多くいらっしゃいます。
バレンタインでいえば「自分にとって大切な人をいたわる日」になりつつあるんだと思います。男女関係なく、大切な人にちょっと特別な思いを伝える。その思いを形にするために、花を選ぶ方も増えたと思うと、すごくほっこりした気持ちになりました。
塚田さんは、花に対するたっぷりの愛情と冷静なビジネス的視点を併せ持つ方だと思うのですが、商業施設に出店するという新たな挑戦に対して、「怖さ」はなかったのでしょうか。
【塚田】 ないと言えば嘘になるのですが、やっぱり怖さよりもいい意味でのわくわくの方が大きいです。今年33歳になりますが、今、挑戦して失敗して仮に数千万円の借金を背負ったとしても、死ぬまでには返しきれるだろうと考えています(笑)。どんな状況になっても這いつくばれる。自分にはそのエネルギーがあるし、人生100年時代なので、年齢的にいまやらないでいつやるんだという気持ちで動いています。時代的にも挑戦しやすい社会ですし、いろんなサポートを受けやすいので、協力していただける方に感謝をしながらやっています。
周りの力も借りながら。33歳、これからですよね。
【塚田】 そうですね。ひとりでやらないといけない状況でだったら、私はやってないと思います。役割分担をしながらやっていくのが、私にとってはヘルシーなやり方なんです。スタッフの子も含めて、周りの人たちがいるからやれるし、もうひと踏ん張り頑張っていこうという気持ちにもなります。

塚田さんは#flowershipの代表でありながら、お子さん3人を育てる母親でもあります。どこにそんなパワーがあるのか後編に続きます。<明日公開!>
#flowership
東京都目黒区東が丘2丁目11−17
https://flowership.jp/
・営業時間 11:00〜19:00
・定休日無し
*詳しい店舗情報についてはホームページをご覧ください。
テナントの最新情報やこもれびプロジェクトについては、公式LINEからお伝えします。ぜひ、お友だち登録をしておいてください!
text / Lee senmi photo / takizawa
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